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無言のままたどり着いた駅は、やけに混雑していた。人びとがホーム上に散らばり、何かを待っているようだ。
「これからラッピング電車が来るみたいです」
佳乃さんがぽつりと言う。構内に貼られたポスターによれば、『わくわく秋の紅葉号』というらしい。
人は増え続け、とうとう入場規制が出た。だが、ホームはすでに身動き取れない状態になっている。ぼくたちはラッピング電車をやり過ごそうと、ホームの端へ避難した。
「本当にごめんなさい」
線路を見つめながら、佳乃さんが言った。
「私、アプリに登録したのも、蜃気楼先生の助言のおかげなんです。それで蒼太さんと出会えて、運命だと思った。だから、絶対ダメにしたくなくて」
運命。佳乃さんと初めて会うことになったとき、ぼくもそう思っていた。けれどその運命も、カツ世に手引きされたのかと思うと……。
「いくらすごい占い師だからって、結局は他人じゃないですか。その言葉を鵜呑みにして生きていくなんて。……ちょっと、どうかしてると思う」
口に出したとたん、言い過ぎたと思った。ぼくは彼女を言い負かしたいわけではないのだ。ただ、カツ世よりぼくの話を聞いて欲しいと思っただけで。
だが撤回する前に、構内アナウンスがあたりに響いた。
『まもなく当駅にぃ、特製ラッピング電車ぁ、わくわく秋の紅葉号が参りまぁす。お客さまはぁ、一歩ずつホームの内側にお下がりくださぁーい』
人びとが大きく動く。後ろから押されてよろめく佳乃さんを、ぼくはとっさに支えた。だがさらに波が来て、堪えきれずに後ずさる。集団から無理やり押し出されたと思った瞬間、足もとの地面が消えた。
「蒼太さん!」
視界が回転し、右肩から倒れて痛みが走った。人びとの悲鳴が頭上から降ってくる。ちょっと待て、線路に落ちた? そこにホーンが鳴り響き、倒れたぼくの真正面に電車がやってきた。車体は見慣れた銀色ではなく、燃えるような赤だ。
今日のラッキーカラーは赤。そんな言葉が浮かぶ。
赤いもの――わくわく秋の紅葉号。
そして血。
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