005スルー

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005スルー

「そうやってお金の亡者になってはいけませんよ」  俺が金を稼ごうと言っていると、ローラが優しく注意してくれた。ちなみに愛を深めるという部分は今回も笑ってスルーされた、俺はローラを愛しているが、彼女から見たら今も可愛い幼い男の子でしかないのかもしれなかった。いつか頼りになる男として認めさせてやると俺は決めた、現状では不安定な収入なのだからちょっと男としては頼りなかった。 「行ってくるよ、ローラ」 「いってらっしゃい、ラウル」  翌日は家でローラの手料理を食べてから冒険者ギルドに行った、ローラの手料理も素朴だが美味しかった。もうこれからは毎日こんな食事ができるかと思うと夢のようだった。さぁ、気を引き締めて仕事だ。 「色々あるけど、これだっていうのが無いな」  俺は依頼を決めかねていた、高額依頼もあるのだが護衛依頼だったり、それか場所が遠すぎて日帰りするのが難しかった。俺は日帰りでローラと夕食を楽しみたいのだ。仕方がなくあなり稼ぎが少ない『ゴブリン退治』を受けた、最初は一人でゴブリン退治ですかと驚かれたが、一応依頼は引き受けることができた。そうして俺は自分の足で快速で現場に向かった、ちょっと風の精霊の力を借りているからできることだった。 「娘たちが攫われ、男は殺されております。あの、本当にお一人でこの仕事を?」 「ああ、一人だ。でも夕方までには片付けるつもりだ」 「やれやれ、また一人の若者が死ぬのか」 「村長さん元気だせよ、俺が来たからには一人でも大丈夫だって!!」  さてさっそく俺はゴブリンが巣にしているであろう洞窟を探した、風の精霊に匂いをたどってもらったらすぐに洞穴が見つかった。そして俺は白い霧を中に送り込んで自分の前も見えないようにした、そうしてから敵になるゴブリンと味方である攫われた女の人の位置を把握した。後は簡単だった穴の中に入っていって、ナイフで静かにゴブリンだけを殺していった。そうして大人のゴブリンは皆殺しにしたのだが、一つだけ大きな問題があった。 「よう村長さん、ゴブリンを大体殺してきたんだが、問題発生だ」 「うぅ、ひっく、うぅぅ、ひっく、もう嫌、ひっく、ひっく」 「これはなんということだ!?」  ゴブリンって繁殖の為に他の種族の女を襲うんだけれど、だから攫われた女の人の数を聞いて、裸を隠す布も人数分持っていったんだ。だけど一人ゴブリンの子を妊娠している女の子がいた、彼女は大きくなったお腹を隠すようにしながら、ずっと子どものように泣き続けていた。 「夕方までに片付けるってのは訂正する、多分今夜中に生まれるからそいつらを殺したら依頼達成だ」 「もう娘ごと殺してしまえば良いのではないでしょうか?」 「ひっ!? うぅ、ひっく、ひっく、ひっく」 「それは乱暴な解決策だな、でも駄目だよ。村長がそんなに勝手に人口を減らしちゃ駄目だろ」 「そうですか、そうですね。村の端っこの納屋のなかで片付けてくだされ」 「うぅ、ひっく、くぅ、ひっく、くうぅぅぅ!!」  俺と村長が話をつけようとした時、ゴブリンの子を孕んだ女の子がいきみはじめた。俺は急いでそのこを抱っこして村の端っこの納屋に走った、それから数分も経たないうちに出産が始まり、俺は無事に生まれたゴブリンの子を殺していった。ふぅ~、出産が早くてよかった。これなら夜にはローラのところに帰れそうだ。全てのゴブリンを始末した後、俺は村長から依頼書に達成印を貰った。 「この度は本当にありがとうござい……」 「ごめん、ローラの夕食が待ってるから俺は帰るね!!」  一応森の中とかも確認しておいたが他にゴブリンはいなかった、俺はローラの夕食を目標に風の精霊の力も使って一生懸命に走った。そして夜寸前の冒険者ギルドに着いて依頼達成の報酬を貰った。金貨が二枚という寂しい報酬だったが、村が救われたのだから良いことだ。俺は急いで自分の家に帰ったら、笑顔のローラが迎えいれてくれた。そしてお風呂に入ってちょっと休んで、ローラと一緒に夕食にした。今日の仕事は家賃くらいにしかならなかったと俺は言った、そして生活費足りてるかとローラに聞いた。 「生活費は足りてます!! まったく何も言わずに金貨を十枚出すから、最初は手切れ金かと思いました」 「俺はローラが好きで、愛してるのになんで手切れ金になるの?」 「ラウルはモテるし、女は選り取り見取りでしょう」 「えっ!? 俺ってモテてたの? ローラ以外に俺の相手をする奴いなかったぜ」 「まだ幼い頃から侍女たちにモテてましたよ、だから床の相手に誰を選ぶのか皆で賭けまでしていました」 「俺はローラを選んだだろ、誰が儲けたんだ」 「すっごい大穴だといわれました、私は賭けるお金がなかったので、台所の誰かが大儲けしてました」 「あっはははっ、ローラの魅力が皆は分かってないな!!」  そして夕食を終えるとローラに今日も抱いていいか聞いた、ローラは申し訳なさそうに月のものがきていましてと答えた。それなら仕方がない、俺にとってローラの体調が良い方が良かった。それにしても俺の愛の告白はまたスルーされた、なんとなくローラはその辺をはっきり聞きたくないみたいだった。でも誘えば俺に抱かれる、女の人というのは難しい生き物なのだと俺は心底思った。 「女心は複雑だな」 「何かおっしゃいました」 「ううん、何でもない。おやすみ、ローラ」 「おやすみなさい、ラウル」  そして翌日も俺は働くために冒険者ギルドに行った、朝で依頼がびっしり貼りだされていた。俺は依頼をとる競争はしたくなかったので、しばらく遠目に見える依頼書を読みつつ競争が収まるのを待っていた。 「やれやれ、やっと依頼が選べるな」  俺は今度は『ファイヤバードの肉の納品』を受けた、ファイヤバードはその名のとおり炎のように真っ赤で火を吹くのが特徴だ。でもその肉は柔らかくてとっても美味い肉と知っている、第三王子だった時に食べたからだ。問題はファイアバードの居場所だったが崖の淵となっていた、足場が少なく攻撃しづらいから高額の報酬が手に入るのだ。 「ぶっ飛ばそうぜ、ひゃっほう!!」  風の精霊と仲良しの俺はそんなことは気にもせず、あっという間に崖まで走っていった。そしてファイヤバードをなるべく傷つけずに、白い霧を出して近づき首の骨を折ってしまった。四羽ほどその方法で捕まえたが、五羽目をローラに持って帰ってやろうと殺して捕まえた。簡単な依頼だったので昼に冒険者ギルドに帰れて、依頼料金貨十六枚も受け取った。そうして少し早めに帰ってローラにファイヤバードを見せたら、ローラはすごく良い笑顔で微笑んで俺の頬にキスをしてくれるほど喜んでくれた。 「中庭で羽だけをむしってください」 「分かった」  俺が全て羽をむしってしまうと解体は、小さな中庭の木にファイヤバードを吊るして、ローラがあっという間にしてしまった。そうしてその夜出たのがフワフワの白パンと、ファイヤバードのシチューだった。相変わらずファイアバードの肉は柔らかいのに脂がのっていて美味かった、料理したローラ自身がうっとりするくらいに美味しかった。 「ローラは鳥の解体もできるなんて凄いなぁ」 「ラウルだって兎や猪なら解体できるでしょう」 「ああ、それで逃亡資金を稼いでいたからなぁ」 「私も台所仕事をすることもあったので覚えました」 「第三王子の侍女なのに、台所仕事を?」 「嫌がらせという奴です、おかげで色んなことができるようになりました」  俺はローラに対するいじめに敏感だったから、そういえば台所のコックをボコって、一晩ずっと木に吊るしたこともあったなぁと思った。俺は平和な日々を楽しみながら、もしかしたらずっとこの街にいるかもなぁと思っていた。 「さて、今日の依頼はっと……」
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