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彼は私の家まで手を握って歩き出した。
「ねぇ、私達って、いつから付き合ってるんだっけ?」
「何言ってんだよ。いつからって……生まれたときに結婚の約束してただろ。親が仲良くてさ」
「そ、そうだっけ?」
私の顔が引き攣る。そんなわけがない。私は今日彼に告白した。高校までは会ったことも無い。心は否定しているのに頭の中の思い出には全て彼がいる。そんなわけ絶対ないはずなのに。
「っと、それじゃあ、また明日」
「う、うん」
彼は笑顔で手を振って帰った。私は暫く玄関の扉の前から動けなかった。
絶対におかしい。彼の距離感がおかしいなんて話じゃない。田舎にポツンと建つ高層ビルのような、間違って男子トイレに入ってしまったような。私だけが別世界に放り出されたような違和感。それを感じていた筈なのに、自分でも分からないくらい、自然と溶けるように少しずつ違和感が無くなっていく。
「ただいま」
「お帰りなさい! 今日も彼と帰ったの?」
「うん。送ってもらったよ」
「ほんと良い子よね、うちの子にはもったいな……ってどうしたのよ!」
母が慌てて私にティッシュを渡した。それを受け取って初めて私は自分が涙を流していることに気がついた。
「どうしたの? 学校でなにか嫌なことあった?」
「ううん。あのね……」
私は口を開く。何かを話そうとするが、口はパクパクと動くだけで言葉は出てこない。先程までなにか言おうとしていたのに。自分がなんで泣いていたのか全く分からない。
「ごめん、なんでもないや」
結局、なんで泣いていたのか、何を言おうとしていたのか、一日中思い出せなかった。
「おはよう!」
「おはよう」
私は迎えに来た彼の腕に自分の腕を絡めた。顔を肩に置いて体を密着させる。
「今日体育あるっけ?」
「五限にある筈」
「そーだよねぇ〜やだなぁ」
私達は人目を気にせず愛を育む。幼少から共に育ったのだ。もうこの程度のスキンシップでは、お互い特段恥ずかしがることもない。
「おはよう!」
「今朝からお暑いことで」
教室に着くと、私は二人の女友達、彼はサッカー部の集まりに分かれる。
「良いでしょ〜」
「やっぱ高校卒業したら結婚?」
「勿論。成人と共に籍入れる予定だよ」
いつもの他愛のない会話。私はふと、いつかに聞いた噂話を思い出した。
「そういえば、知ってる? 図書室の噂」
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