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6.
友恵は予選会の合格者となった。
12月に行われる決勝の大会に出場する。当日の会場には芸能プロダクションのスカウトが来て、出場者と契約交渉を行う。優勝ともなれば、複数の芸能プロダクションが競合して、お祭り状態になる。
「2ヶ月後か・・・」
友恵は『スター誕生』の案内状を見ながら、うーむと首を回した。
ピンポーン、玄関でチャイムが鳴る。
「い、いらっしゃ・・・いませ」
ユミが対応して、客を音楽室へ案内する。
「とと友恵ちゃん、おお・・お客様・・・お茶、おおお願い」
台所に茶菓子が用意されていた。あらかじめ、ユミが揃えていてくれた。
友恵はお盆に茶と菓子を置いて、音楽室へ行く。
「いらっしゃいませ」
門倉はソファに座っていた。対面に客の2人が座っている。
茶菓子をテーブルの真ん中に置き、茶椀を3人の前に出す。
お辞儀して去ろうとすると、門倉が止めた。
「きみもいなさい。堀越さんは、きみに会いに来たんだ」
「わたしに!」
馬面の堀越が立ち上がった。
名刺を友恵に差し出す。
「堀越友二朗と申します」
「助手を務める、萩本錦一と申します」
馬面と猿面の男から名刺をもらい、またお辞儀した。
友恵は門倉の横に腰を下ろす。
「門倉先生の秘蔵っ子が出ると聞いて、見に行っておりました。千堂さんにお辞儀するところで、よい子と確信しました」
「せんどう?」
「アコーデオンの人ですよ」
「ああ、あの人ですか。お会いするのは2度目だったし、この前も褒めて下さったし」
「2度目?」
「前回の予選では落ちました。でも、アコーデオンの方が帰り道に見つけてくれて・・・先生を呼んで」
なるほど、堀越は肯く。
「この世界では、伴奏や小道具などの裏方に愛される者は長生きできる。彼らを尊重できるのは、大切な素養と言って良いほどだ」
へー、友恵は首を傾げながら頷いた。
「12月の決勝では、ぜひ優勝して欲しい。芸能界に入る大きな花火を打ち上げて下さいよ」
「ど、努力します・・・」
馬の荒い鼻息に、押されっぱなしだ。
門倉は腕組みで聞いていた。
「言っておきますが、この子は難しいですよ。お姫様じゃないし、一般家庭の子でもない」
「と、言いますと」
馬面と猿面が凍った。
「病気の母を助けようと新聞配達をやっていた子です。苦労人なんです、まだ若いけど。よくある恋歌には馴染まない生い立ちです」
「あ・・・あらゆる人は、少しずつ他人と違う人生を歩んでいます。それでも普通の恋をしたい、と願うのが年頃の女の子であり、歌の中で願望をかなえるのが歌手です」
「それでも・・・それでも普通を願う・・・確かに、そうですね」
門倉は腕をほどく。
普通を願う・・・友恵も胸の内で反芻した。
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