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まだ暗い時に起こされた。時計は午前2時過ぎ。
チラシの折り込み作業が始まる。多くのチラシの山から、1枚ずつ取って組を作っていく。
3時ごろ、トラックで朝刊が店に来た。
チラシを新聞に挟み込み、運ぶ大きさにたたむ。
4時ごろ、準備が終わって休憩。お菓子とお茶を飲んだ。
そして、遠い地区への配達から出発して行く。
5時前、熊谷は友恵の肩をたたいた。
「さあ、おれらも行こう」
新聞の束を肩から吊せば、ズシリと背にきた。
「ひざを伸ばしきるな。すこし曲げたくらいが、一番高いところと思え。やや腰を落として、歩きながらでも腰が上下しないようにする。歩幅は小さめに・・・これがコツだ」
歩き方から教えられた。
友恵が担当するのは販売店の近く。ここから新人は仕事を始めて、少しずつ遠くを担当するようになる。
明け方の街を行く。
「歩調を一定に保て。早くなっても遅くなっても足にくる。坂や曲がり角では歩幅を小さくして」
道の傾斜や曲がりにも、足取りを一定にするよう心がける。
「歩調を保つために、歌うのも良いぞ」
♪おれのあだ名を知ってるかい 朝刊太郎というんだぜ
熊谷が歌いながら行く。
友恵も続いた。
朝日が街を照らした。
配達を終わり、販売店にもどる。
また、腹が痛くなるほど食べさせられた。
友恵は学校へ行く。
気がつけば、前屈みで足を開いた姿勢。筋肉痛で体が伸びない、足が閉じられない。杖が欲しいほど。
学校が終わると、病院へ。母の見舞いに行く。
廊下で体を伸ばす。ミシミシ・・・ギギギ・・・関節やら筋肉が悲鳴をあげる。
痛みをこらえ、笑顔を作った。
「ごめんね・・・おしごとは・・・できてる?」
母の豊佳が弱々しい声で言う。
「それがね・・・ひどいところ。新聞配達は重労働だからって、もっと食べろもっと食べろ、とお腹が痛くなるまで食べさせるのよ」
「まあ・・・それは、たいへんね」
「お母さん、早く良くなってね。でないと、あたし、ブグブクに太っちゃうよ」
友恵は本音半分、冗談半分で訴えた。
母と娘は笑顔を交わした。夕日が病室を照らしていた。
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