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 新聞販売店にある自転車は業務用の重いゴツいやつ、友恵が乗るのは無理な代物。なので、今日も新聞の束を抱えて走る。 ♪ぼくのあだ名を知ってるかい 朝刊太郎というんだぜ  友恵は歌いながら走る。担当する範囲が広がった。  背筋を伸ばし、大きな歩幅。ほとんど筋肉痛は感じない。  大きな屋敷の前で、老人が待っていた。 「おはよう、今日も元気だねえ」 「おじいさん、おはようございます」  大きな声であいさつ、新聞を手渡しした。 「最近は目覚まし時計がいらない」  奥から男の子が言った。なんと、友恵の同級生だ。 「おはよう」  また大きな声であいさつ。  次の家へ走った。友恵の新聞配達は学校でウワサになっていた。  学校が終わると、病院へ行く。  母はベッドから起き上がれない。  友恵は洗面器にぬる湯を取り、母の体をぬぐう。 「ごめんね・・・ごめんね・・・」  母がこぼす。  ふんふん、るんるん、友恵は鼻歌で返す。  友恵が風邪で寝込んだ時、母は枕元で歌ってくれた。その歌を思い出した。 ♪シャボン玉とんだ 屋根までとんだ  かぜかぜ ふくな  母の介護を終えて、新聞販売店へ。  と、店先に着飾った人たちがいた。香水がプンプン、息が苦しくなる。 「あなたね、こんな年端もいかない子を働かせて」  店主の熊谷は平身低頭、ただ聞き置くばかり。 「今後、気をつけてお願いしますね」  文字で表せば丁寧な言葉だけど、口から出た時は大型機関銃のような破壊力だった。  ぞろぞろ、香水軍団が店から遠ざかる。  息が楽になった。 「しばらく配達は停止だ。チラシの折り込みとまかないの手伝い、そっちにな」  熊谷は疲れた顔で言った。 「入院費の心配はしなくて良いから。おまえはウチの子だ」  疲れ笑いで言う熊谷。友恵は肩をすぼめてお辞儀した。 「あんな学校、やめたい!」 「義務教育だ、しっかり通いなさい」  だだをこねたが、叱られた。
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