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2.
新聞販売店にある自転車は業務用の重いゴツいやつ、友恵が乗るのは無理な代物。なので、今日も新聞の束を抱えて走る。
♪ぼくのあだ名を知ってるかい 朝刊太郎というんだぜ
友恵は歌いながら走る。担当する範囲が広がった。
背筋を伸ばし、大きな歩幅。ほとんど筋肉痛は感じない。
大きな屋敷の前で、老人が待っていた。
「おはよう、今日も元気だねえ」
「おじいさん、おはようございます」
大きな声であいさつ、新聞を手渡しした。
「最近は目覚まし時計がいらない」
奥から男の子が言った。なんと、友恵の同級生だ。
「おはよう」
また大きな声であいさつ。
次の家へ走った。友恵の新聞配達は学校でウワサになっていた。
学校が終わると、病院へ行く。
母はベッドから起き上がれない。
友恵は洗面器にぬる湯を取り、母の体をぬぐう。
「ごめんね・・・ごめんね・・・」
母がこぼす。
ふんふん、るんるん、友恵は鼻歌で返す。
友恵が風邪で寝込んだ時、母は枕元で歌ってくれた。その歌を思い出した。
♪シャボン玉とんだ 屋根までとんだ
かぜかぜ ふくな
母の介護を終えて、新聞販売店へ。
と、店先に着飾った人たちがいた。香水がプンプン、息が苦しくなる。
「あなたね、こんな年端もいかない子を働かせて」
店主の熊谷は平身低頭、ただ聞き置くばかり。
「今後、気をつけてお願いしますね」
文字で表せば丁寧な言葉だけど、口から出た時は大型機関銃のような破壊力だった。
ぞろぞろ、香水軍団が店から遠ざかる。
息が楽になった。
「しばらく配達は停止だ。チラシの折り込みとまかないの手伝い、そっちにな」
熊谷は疲れた顔で言った。
「入院費の心配はしなくて良いから。おまえはウチの子だ」
疲れ笑いで言う熊谷。友恵は肩をすぼめてお辞儀した。
「あんな学校、やめたい!」
「義務教育だ、しっかり通いなさい」
だだをこねたが、叱られた。
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