1、絶対

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1、絶対

ここは穏やかな海と白い壁に囲まれた夢の城。  古代の海外の城は、門の中に街並みが丸ごと包み込まれ庶民の生活までが守られていたという。  他民族の侵入や、流れ者、追剥などから生活を守るためだったのだろうか。  人間は集団になる事で強くなり、階級を作り出し規範を作りはじめる。    この島も、ある意味要塞のようでもある。  しかし、目に見えない人々の優遇される順位と規律があるように感じている。  この島は、昔ながらの閉鎖的な人間と、観光業で生計を立てる若者たちが  混じっている。  けれど、一様に皆の生活と安定を保つ事には老若男女の利害が一致している。    また、この島に訪れる者の大半は、一時的に癒しや休暇を求て楽しみに来る。  つまりは、人々の憧れともいう夢の幻想で保たれている。  自分たちは裕福であり、バカンスを送れるのだという一種のプライド心を満足させる事でもある。  翠色のドームを冠した建物を頂点に、白い建物と壁が上から下まで続いてゆく。  ずっと続く白の中でも際立って目立つのは、落ち着いた深緑の屋根と玄関ドアだろう。  金縁の洒落たドアノブが光っている。  一見すると、皆同じ造りの様なホテルである。  ただし、上から下まで違う事がる。  宿泊料と共に、部屋のグレードと広さ、あつらえた家具の質もだんだんと降りてくる仕組みだ。  この島の売りは、大型の水族館とドーム型のプラネタリウムに海の見えるレストランバーだろう。  食後は、もう『野となれ灰となれ』とでもいうようだ。  つまり、大人がロマンチックなアバンチュールを楽しむだけのように洗練されているのだ。  島の要塞と言うなら、さながらフランスのとある修道院のようだ。  けれど、実質は大人の夢が全て詰まっている空間なのだ。    海の満ち引きに左右された道ができるあの外国の島のように、この景色を映えさせる。  夕日に照らされた黄金色の荘厳のカーテンが、静かな瀬戸内の海ごと優しく揺蕩っているばかりだ。  そんな人間の欲望などに関心はないのだと、海も太陽もそ知らぬ顔をしている。 そんないつもの光景だ。
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