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やっぱりすべてを見透かされてたんだ。
そう実感すると、心臓が今更ながらドキドキしてきた。
手に少しの汗が滲む。
けれど、焦りと当時に怒りがわいてくる。
「とても狡い大人の言葉だね」
怒りと共に、乾いた笑いが同時にでてしまう。
私の笑い声が静かな部屋いっぱいに響いている。
まるで期待と言う風船が空に舞い上がるチャンスを逃し、惨めに萎しんでいくのを見ているかのようだ。
自分の心がそうなっている事を感じる。
この男に、途端に冷めてしまった。
大人は狡い。
興味があると言って、罪にならないように自分から女を罠に誘い込む。
若いメスが興味本位で自分に飛び込めば、徐々に蟻地獄に誘い込むのだ。
この人のやや切れ長のクールな目元から送られる視線。
決断力や粗野ともいえるほど人の心にズカズカ入ってきた情熱。
それに相反して、冷静に見ているだろう鋭い眼差しが良かったのに。
さっきまで、恰好よく見えていたのに、今は霞んで見える。
このチーターのような男に魅力を感じていたはずなのに。
ただのハイエナだとわかり、がっかりした感覚だ。
夢から叩き起こされた気分だ。
その虚勢を張った笑い声さえも、大人からすると鈴が鳴るようにコロコロとかわいらしいものなのかもしれない。
さて、どう逃げようかな……。
そう焦りながらも、私は考えを巡らせ始める。
その目の動きと、僅かな動揺をこの男に悟られたのかもしれない。
「今更どこに行くんだよ? ここ以外行く所もないくせに」
私に放たれたこの一言。
氷のような冷たいこの言葉のインパクトの方が強い。
まごう事なき正解だからだ。
すでに私の心の隙を見透かしている様だ。
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