1、絶対

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窓際に私をたたせる。  風がさっと通り抜けて、私の切りそろえられた黒髪のボブがサラサラと揺れる。  そのゆれた毛先と表情をシャッターが丁寧に追っているようだ。  私という被写体をカメラという新たな目を通して見ている。  彼が冷静に私を観察し直しているようにも感じる。  ファインダー越しに、窓からの海の光景と私が被さったのだろう。   「この緩やかな淡い青の海。 俺の育った紺碧の荒い海とは全然違う」  その後、こう続ける。 「例えばだけど……、あんたの人生はこんな穏やかな海を見ながらも紺碧の海の様なものなのかもしれないな」  彼なりに、私の中の心の隙の一端の答えをレンズ越しに見つけたのかもしれない。  「なんでそんな予測が立つの? 」  私は、そう自然と問いかける。  会話をすすめながら、徐々に不思議そうに私と言う人間が動く。  目を大きくしたり、口を尖らせたり、驚いたりする口元がつくる顔の造作。  その一瞬を、彼はどんどん切り取り映像にしてゆく。  そして、無機質な機械にどんどんとそれらを投げ入れ収めてゆく。 「さぁな。俺には何となくだけど人の心が自分の中に入ってくるように感じる事があるんだ」  まるで他人事のように、さらっと言ってのける。 「俺は、紺碧の荒い海に育ちながら、何の変哲もない穏やかな海のような人生を送り、とても鈍感な無機質な人間だった」    「ある日、そんな俺をぶっ壊したくなった」  そういうと、手が顔の向きを変えろと私に指示をしてくる。  ただ、一方的に撮られるだけなのがつまらなくなり、窓から身を乗り出す。  私の上半身が遠近法により、もっと海と近くなる。  吹いてくる風と、彼の告白。  それらが、解放感をもたらしたのかも知れない。  私も自分の秘密を洩らしたくなった。 「私には、数字の声が聞こえるように感じる事があるの」 「へぇ? 」  彼は特にに動じる事はない。  ただ興味をひかれたようにそう彼は言う。  空に薄紫のベールを纏い、夕闇の幕が下りてきはじめる。
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