第2話 聖剣士になった幼馴染

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第2話 聖剣士になった幼馴染

リュカは追放された後 静かな山奥を一人歩きながら 過去の出来事を思い返していた。 「俺は、あの時……」 リュカの脳裏に浮かぶのは 5年前の12歳の時に経験した重要な選択だった。 勇者が12歳になると この世界の管理者『アドミニストレーター』が現れ たった一度だけ問われる。 「勇者リュカよ スキル、何が欲しい?」 12歳のリュカは たとえみんなが怖がる『闇魔法』であっても 世界最強であるなら きっと皆が理解してくれると信じていた。 「魔族のスキルでも構わない 俺は全世界で最強のスキルが欲しいんだ!」 リュカが選んだのは 魔王ルシファードが持つ究極の技 『エクリプス・ノヴァ』だった。 闇の太陽を生み出し その爆発的な力で全てを焼き尽くす破壊の技。 リュカはその力に魅了され スキルを手に入れた。 これで自分は最強の勇者となり みんなから支持を得られると思っていた。 だが、現実は違った。 「結局 王国の人々は見た目を重視していたんだ……」 どれほど強力な技を持っていようとも 『闇魔法』である限り 人々はその存在を恐れ 受け入れることができなかったのだ。 だが リュカはその選択自体を後悔していなかった。 自分がいつか この力を正当に使い 真の勇者として人々を守る日が来ると 信じていたのだ。 「まあ、今のところ 誰も理解してくれないだろうな……」 リュカはため息をついた。 その時だった! リュカが山道を歩いていると 突然遠くの方で爆発音が聞こえた。 音の方角を確認し リュカは急いで駆け出した。 何かが起きている そう直感した。 音の元に辿り着くと そこにはウルフ型のモンスターが3匹 一人の剣士の少女を 取り囲んでいる光景が広がっていた。 リュカは木々の陰からその様子を伺う。 少女は剣を振るいながら必死に モンスターを迎え撃っていたが 彼女を取り囲むウルフたちも素早く動き 隙を見つけようと狙っている。 「大丈夫か……?」 リュカは助けに入ろうとしたが しかし 少女はそのままモンスターたちを 引き連れて走り去っていった。 リュカはためらうことなく 彼女を追いかけた。 森の中を進むうちに やがて少女は岩場に追い詰められた。 ウルフたちは牙を剥き出しにし 今にも飛びかかろうとしている。 リュカは剣に手を伸ばし 今こそ助けに入るべきだと心を決めた。 しかし その瞬間だった! 少女は動きを一変させ ーーーーーーーーッズズ!!!! 見事な剣技で次々とウルフを切り伏せていった。 一瞬で3匹のウルフは倒れた。 驚くべき速さと力だった。 リュカは その少女に目を凝らした。 どこかで見たことがある気がした。 胸が高鳴り 記憶が呼び覚まされる。 「まさか……エリナ?」 彼女は間違いなく リュカの幼馴染である エリナ・ヴァレンタインだった。 あの頃と比べて さらに美しく そして強くなっていた。 エリナの姿は 以前の彼女とは全く違う。 聖剣士の装備に身を包み 輝く金髪が風に揺れている。 あの笑顔と優しい瞳は健在だが 今は強さと誇りを(まと)っている。 「エリナ……」 声をかけようとしたが リュカは一歩踏み出すのをためらった。 自分はもう 勇者パーティを追放された身だ。 エリナに会う資格なんて 今の自分にはないのかもしれない。 エリナがこのように聖剣士として 立派に成長している一方で 自分は何も成し遂げられずに 勇者パーティを 追放されてしまった。 その差を思い知らされ リュカは心が揺れる。 「俺が声をかけても…… 彼女はどう思うんだろう?」 リュカは自問自答しながら その場を立ち去ろうと背を向けた。 エリナに会うことなく 遠くから見守るだけで十分だ。 今は エリナの成功を邪魔するわけにはいかない。 自分の存在は 彼女にとって不安材料になるだけだろう。 しかし 心のどこかで 彼女との再会がこの孤独な旅の中で 唯一の救いになるのではないかと感じていた。 それでも 今のリュカには彼女と向き合う勇気が足りなかった。 リュカはそのまま 深い森の闇に消えていこうとした。 その時、異変が起きた! エリナが3匹のウルフを倒し 肩で息をしていたその瞬間 空気が突然重くなり 闇のエネルギーが辺りに充満した。 リュカは異様な気配を感じ取り 思わず息を飲んだ。 岩場の向こうから 暗黒のオーラを(まと)った一人の男が現れたのだ。 男の体からは強大な闇のエネルギーが漂い その姿は周囲の光を飲み込んでいくかのようだった。 長い漆黒のマントを羽織り その下には重厚な黒い鎧。 鋭く光る瞳がエリナに向けられると エリナはすぐに剣を構えた。 「何者……?」 エリナの声は鋭いが その目には警戒の色が浮かんでいる。 その男は一歩 また一歩とゆっくりと近づいてくる。 まるで 周囲の空気さえも彼に 吸い込まれるかのようだった。 リュカはその異常な闇の力を遠くから感じ取りながら ただその場に立ち尽くしていた。 『暗黒騎士ゼファー』 リュカはその名前を知っていた。 滅光騎士団(めっこうきしだん)という 魔王ルシファードの直属の部隊 そしてその団長が目の前にいる。 その闇の力は強大であり 普通の人間とは明らかに 異なる存在であることが一目で分かった。 「ここで死んでもうらぞ 聖剣士エリナ」 ゼファーの声が低く響いた。
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