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『オレの頭の中には、天使が2人もいる。そして、そいつらは、いつもオレの邪魔してくるのだ…』
男は、今日も住宅街を歩いていた。いつものように、それとなく辺りを物色しながら、品定めをしているのである。
そして、一軒の家が男の目に留まった。
『あの窓…、鍵が掛って無いな…』
男は長年の経験と勘、洞察力によって、その家の状況を瞬時に見抜く事ができた。そして男は、その能力を使って今日もターゲットとなる家を決めたのだ。
そう。男は空き巣である。
男はかれこれ、10年以上も空き巣を繰り返して生きてきた。捕まりかけた事や、家主に見つかって返り討ちになりそうになった事が、今までに何度もあったが、そのたびに逃げおおせて、今も懲りずに空き巣を続けているのだ。
男は辺りを警戒しながら、その家の門扉を開き、敷地に侵入した。いつも通りである。そして、目を付けていた鍵の掛かって無い窓に手をかけたその時であった。
「ダメーーー!!!」
男の頭の中に大声が響き渡った。
「ぐっ…!」
男は頭を抑えて、動きが止まった。
「また、こんな事をしようとして…!やめなさい!そして、自首しましょう!」
「クソッ…、黙れ…!このクソ天使が…!オレ様の邪魔をするな…!」
男は強い精神力で、天使の言葉を振り切って、窓を開けた。
「バカバカバカバカバカバカーーー!!!」
「グアァァ…!」
男は再び頭を抱え、うずくまった。男の頭の中で、先ほどの倍の声量で言葉が響き渡ったからだ。
「クソッ…!このクソ天使どもが…!普通1人につき、天使も1人だろーが…⁉︎どうして俺には2人もいやがるんだ…!」
「アナタが空き巣をやめないからですよ…!私たちはアナタを見捨てたりしません!だからもう、こんな事はやめましょう…!」
2人の天使は男の頭の中で、優しく語りかけた。
「黙れ…!クソ天使ども…!オレはお前らなんかの指図は受けねぇ…!とっとと失せやがれ…!」
男は凄まじい精神力で、再び動き出した。開けた窓の窓枠に片足を掛けて、家に侵入しようと、力を込める。
「ワーワーワーワーワーワーワー!!!!!!!」
「グアァァアァァァァァ…」
男の頭の中で、2人の天使が叫び回っている。
「や、やめろ…!わ、分かった…!今日はやめる…!だから、もうやめてくれ…!」
ついに男は、観念した。
「良かった…!分かってくれたのですね!」
「では、自首しに行きましょう!」
「……」
「さぁ、早く…!アナタは今まで多くの過ちを繰り返してきましたが、きっと救われます…!」
「そうです!私たちは、アナタを最後まで見捨てたりはしませんから…!」
男がゆっくりと窓枠から足を下ろして、振り返り、自首をしに行こうとしたその時であった。
「オイオイオイ、何してくれてんだよ…⁉︎」
「全く…、ちょっと目を離すとこれだ…!」
「いつも邪魔ばっかりしやがって…!」
「コイツはもう、オレたちに完全に心を売っちまってるんだ。もう手遅れなんだよ…!」
「懲りないヤツらだぜ…!」
「学習しねーな、お前らも…!」
「綺麗事ばっかり言いやがって…!」
「コイツらの言っていることには、何の保証も無いぜ…!」
「そうそう!コイツらが罪を軽くしてくれる訳じゃ、ないからな…!」
「少し待ってろ。すぐに楽にしてやるよ…!」
「あ、アナタたち…!私たちの呪文でぐっすりと眠っていたはずなのに、どうして…⁉︎」
天使たちの前に、男の頭の中に巣食う10人の悪魔が立ちはだかった。
「もう、やめなさい!これ以上、この人を苦しまないで…!」
「そうよ…!あなた達さえいなければ…」
「やかましい!皆んな、かかれー!」
「ウオォォォォーーー!!!」
「うわー!や、やめなさいー!」
“ボコボコドカドカバシバシベキベキ…”
こうして男の頭の中の2人の天使たちは、今日も10人の悪魔にボコボコにされてしまったのであった。
そして、男は今日も空き巣を遂行するのであった。
終
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