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昔々、子供のいない夫婦が、子供を授かるようにと、毎日村の小さな神社に祈っていた。ある日、願いが神さまに届いたのか、神社に赤ん坊がいた。赤ん坊は愛らしい女の子だった。
夫婦は女の子を大切に育てた。成長した女の子は美しい娘になった。娘の噂は村だけでなく山向こうまで広がり、多くの者が求婚した。その中には庄屋の息子もいた。だが夫婦はまだ娘を手放したくなく、娘もまだ両親の傍にいたいと思っていた。だから全ての求婚を断った。そんなとき、一晩泊めてもらえないかと、旅の若者が娘の家を訪ねた。むは一目で若者に心を奪われ、若者もまた娘に惚れた。若者は旅を止め娘と暮らすことにした。
娘と若者の間に元気な男の子が産まれた。娘の両親はたいそう男の子を可愛がった。男の子もなついていた。幸せな日々が続いた。
ある日のこと、男の子が一人で遊んでいるところに、庄屋の息子がやって来た。
「坊。おまえさんに大事な話があるが」
「大事な話ってなん」
「おまえさんは、あの家の本当の息子でねえ」
「そんなん嘘は信じらんで」
「嘘なものか。おまえさんは、あの一家に喰われるためにな、山向こうから、さらわれて来たんで」
男の子はぴくりとした。なぜならいつも
「一人で遊ぶときは用心しいな。人を喰らう奴にさらわれんような」
と言われているからだ。人喰う奴らは人と同じ姿をして、さらった子が丁度良いくらいに成長したとき喰うのだという。
「怖いよ、おじさん。おいら喰われとうないが」
男の子は庄屋の嘘を本気にした。
「喰われとうないんなら、殺すしかねぇなぁ」
「殺すの?おいらにできっかなぁ」
「できるとも。ほれ、これを飯に混ぜるとみんないちころだ」
男の子はすり鉢ですり潰した毒薬をもらった。それをこっそり夕飯に混ぜた。夕飯を食べた娘とその両親と若者は苦しみ悶えて息絶えた。
「これで安心だがね」
「うん」
「もう何も怖くねぇぞ」
「うん」
「ほれ、これでも食べな」
男の子はまんじゅうをもらった。たいそう甘かったが、男の子も苦しみ悶え息絶えた。
庄屋の息子は、ほくそ笑んだ。
「求婚を断られ、恥をかかされた恨み、ようやく晴らせたで」
終わり
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