あなたのお土産

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 「はい、お土産」  ある日、仕事からもどると夫が私に一冊の本をくれた。 「本屋にあってね。探しながら歩くほうが楽しいだろう」  初心者向けの山野草の本だった。それからは本を持って出掛けて花を見つけては2人で宝さがしみたいに楽しんだ。  私の足腰は丈夫になり、夫も元気で昔より会話が多くなった。  息子が結婚しお嫁さんが一緒に暮らすようになり、娘は都会に一人暮らしを始めて落ち着いた矢先。  楽しい生活が終わりを告げた。  定年して1年だった。  今年はのんびりして、来年はどこか旅行に行くはずだった。  夫が定年するも、週に1度仕事に行っていた先で倒れ、2ヶ月で逝ってしまった。
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