#2

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 太い見事な梁と味わいある年季の入った柱が幾本も天井まで伸びていた。 「ここはハルちゃんだけのおへやなんだよ」  ハルちゃんが自慢そうに言って、バレリーナさながらにくるりと回る。  壁際にはお気に入りのたくさんのお人形や絵本が整頓され並べられていた。 「本がいっぱいだね、すごーい」  そう言うとハルちゃんは、絵本を読んでと、一冊の本を持って来た。  私は気軽にいいよと言い、子ども用の小さな椅子に座る。  ハルちゃんが持って来たのは絵本だった。  表紙には、ハルちゃんくらいの女の子を抱いたおかあさんの後ろ姿が描かれている。 『ママ 泣かないで ママ 笑って』  そのタイトルを見て、私の心が、チクリと痛んだ。  思い出したくもない記憶が気泡のように浮かんで来るのを感じ、それを無理矢理、記憶の底に沈める。  そんな私のこころをよそに、ハルちゃんは背を向け私の膝の上に慣れたように乗る。私は彼女を抱き抱えるようにして絵本を持った。  首を後ろに折り曲げ、ハルちゃんは私を見る。 「ママがいつもよんてくれるんだよ。ハルちゃんね、このえほんだいすきだから」 「そうなんだ。お姉ちゃん上手に読めるかなぁ」 「おねえちゃん、がんばれ」  ハルちゃんの言葉に私はぷっと吹き出し、うん、頑張るねと目を細める。  私たちをずっと見守っていたママの足音が、トントントンと遠ざかり、やがて、聞こえなくなった。  私は絵本の表紙を、丁寧に繰る。     その直後だった。  家が、グラグラっと揺れたのは。  すぐに、地震だと思った。  天井を見上げる。  垂れ下がったペンダント型の電球が大きく揺れていた。逃げなきゃと思ったが、さらに大きな揺れが動きを止めた。私はハルちゃんを抱きしめたまま揺れ続けた。   「こわい!」  そう言うハルちゃんを後からギュッと抱きしめたが、そのせいでバランスを崩し、私たちは小さな椅子から床に投げ出された。  家中から不気味な軋み音が聞こえ、あちこちで物が音を立て落ちた。 「おねえちゃん、こわいっ!」  ハルちゃんの体は固く強張っていた。 「大丈夫、すぐに終わるから」  私は床に寝そべりながら、彼女の頭を守るようにして、うずくまる。 「大丈夫、すぐに終わるよ」  しかし、まったく大丈夫ではなかった。  かつて体験したことのない衝撃が、追い討ちかけるように襲った。  バリッバリッと怖しい音がした瞬間、私はハルちゃんと共に、一瞬、宙に浮いた。ハルちゃんが、キャーッと叫んだ。  私は彼女を離すまいと抱きしめたまま、床に這いつくばる。  ダーン、ダーン、ダーン!  耳をつんざくような音と共に、今度は床ごと落下する感覚があり、私たちは何度か激しくバウンドし、最後には、大きな衝撃と共に激しい痛みが私を襲った。堪えきれず、呻き声が漏れる。  次いで、何か固いものが私たちに落ちて来た。  私は両手でハルちゃんの頭を守りながら、自分の身も守る姿勢をとったが、両脚がなにかに引っかかり、伸びたままになっていた。    その時、太い柱が私たちめがけて倒れて来るのが見えた。目を固く瞑り全身に力を込める。次の瞬間、伸ばした私の両脚に、その太い柱が直撃した。 「うっ、ううう!」  あまりの苦痛に、意識が遠ざるのを感じた。  しかし、誰かが呼ぶ声に私は意識を取り戻す。 「おねえちゃん、おねえちゃん!」  私に抱かれたハルちゃんが、泣きながら私の名前を呼んでいた。薄れていた意識がゆっくりと戻り、浅い息を途切れ途切れにしながら、私は覚醒していった。    辺りは、死の世界のように不気味に静まりかえっていた。  すぐ目の前に、ハルちゃんの顔が見えた。  生きている。  私たちは、生きていた。 「ハルちゃん・・・」  艶やかだった髪はいまや埃か何かで真っ白になってはいたが、無事なんだと安堵し、その小さな体を私は、横になったまま抱きしめた。
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