10人が本棚に入れています
本棚に追加
#1
フリーライターになって5年目のことだった。
私はネットニュースの切り抜きのリライトなどしながら、細々と食い繋いでいた。
そんな時、ある編集プロダクションから、取材の仕事が舞い込む。そこそこメジャーな雑誌の取材と記事だ。初めてのまともな仕事に、私は有頂天になった。
それが私のフリーライターとしてのスタートといってもいい。しかし、その仕事がまさか自分の運命の分岐点になるとは、知る由もなく。
東京駅から新幹線に乗った。
取材先は到着駅の町から外れた、水のきれいな深い山の中にあった。
文化遺産にもなっている織物業を長年にわたって営む家のおばあちゃんに取材するのが私の仕事だった。
築百年の大きな家は、市の指定文化財にも指定されている大きく立派な建物だった。
取材の対象である80歳を過ぎたおばあちゃんの仕事ぶりをひと通り拝見し、私が写真を撮り、その後、仕事場でお話しを伺った。
名人と言われたおばあちゃんの話はとても興味深かったが、それ以上に、仕事場を駆け回る、3歳だというかわいい女の子に私はすっかり魅力されていた。おばあちゃんの娘さんの子ども、お孫さんのハルちゃんだ。
駆け回るハルちゃんに、お仕事の邪魔しちゃだめよとママは再三再四注意したが、彼女は無邪気に飛び回り、時々、私にちょうかいを出してはケラケラと笑った。
天真爛漫で、屈託なく、よく動くくりくりとした目がなんともかわいらしかった。
話をひと通り聞き終えるとハルちゃんは、待ってましたとばかりに、真っ先に私の元に来て、その小さな手で私の手をギュッと握った。
なんて小さく、温かいんだろうと、私の胸がキュンとした。
ママもおばちゃんも仕事に忙しく、なかなか構ってもらえないのかなと内心思う。
ハルちゃんは、自分の部屋に遊びに来てと私を誘った。
仕事をしていたママが、ダメよとハルちゃんとたしなめたが、彼女は駄々をこね、べそをかいた。少しくらいなら大丈夫ですと私が言うと、ハルちゃんは飛び跳ねて喜び、私を引っ張って階段を上がった。
ハルちゃんが私を連れて上がったのは、急な階段を上がった二階から、さらに上に伸びたその先にあった。
そこは、立派な屋根裏部屋だった。
最初のコメントを投稿しよう!