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#4
以前、私には恋人がいた。
恋人と言っても、相手には妻子がいた。
私は本気だったが、その人にとっては、ただの遊びだったのかもしれない。しかし、私は彼を本気で愛していた。
付き合って1年経った頃、生理が遅れ、しばらく様子をみたが不安になり産婦人科に行った。そして、妊娠していると告げられた。
ショックだった。
避妊はしていたつもりだったが、完璧とは言えないから、妊娠するリスクは常にあった。
しかも、産むか産まないをすぐに決めなけれいけない時期にもあった。
私はそのことを相手に告げる。
彼の目が泳ぐのがわかった。明らかに困った顔をし、そして無表情に言った。
「金は用意する」と。
堕ろせということだ。
確かに、産める関係ではなかった。それでも私は彼を愛していたし、結婚の2文字も頭のどこかにあった。それなのに、即答で、堕ろせと言われたことに、私は失望し、悲しかった。
産んでひとりで育てようとも思ったが、結果から言えば、私は苦渋の決断で、中絶した。
医者から、終わりましたと告げられた時、私は手術台の上で号泣した。何度も何度も、ごめんなさいと言った。
ごめんなさい、と。
病院からアパートに戻ると、彼は私に無言で封筒を渡した。中には新札の一万円札が入っていて、中絶費用にしては多いと思った。百万ある、と彼は言った。
封筒を持つ手が震えた。
「手切れ金のつもり?」
彼は何も言わなかった。
私の中で、何かが壊れた。
彼の顔を目掛け、その札束を投げつけた。
一万円札がばらばらになり、舞うように床に落ちるのを私は呆然と見ていた。
彼は何も言わず、アパートを去った。
永遠に。
私は、床にばら撒かれた一万円札を眺め、
それからそれを、
1枚1枚、拾った。
拾いながら、涙が止まらなかった。
屈辱感と惨めさが混じり合い、悔やみきれない絶望感が私を圧倒した。
私の中に灯った小さな命は、もう永遠に戻らないのだと。
私はあの日、
自分の胸に、
烙印を押した。
罪人の二文字を。
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