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#5
ハルちゃんは私にしがみつき、ずっと泣き止まなかった。私も泣きたかった。しかし、いまは彼女の保護者として泣くわけにはいかない。
階下にいたハルちゃんのおかあさんとおばあちゃんは無事でいて欲しいと切実に願った。しかし、ハルちゃんのおかあさんが、わが子を見捨てて外に逃げるだろうか・・・。
ハルちゃんの名前を呼ぶ声が外からしないのも、不自然だ。
不安が胸を締めつける。
取材の中で、ハルちゃんはシングルマザーで育てていることをおばあちゃんは語ってくれた。もしハルちゃんのおかあさんとおばあちゃんにもしものことがあれば、彼女はどうなるのだろうか・・・。
私は、泣き続けるハルちゃを抱きしめながら、切なさで胸が張り裂けそうになる。
再び、天井を見上げる。
破れた屋根から見える空には、星が見えた。
その時、あることが頭に浮かぶ。
大声で助けを呼ぼうと。
私とハルちゃんで声を上げる。それに気づいた救助隊が救いの手を差しのべてくれるかもしれない。
しかし、私のその考えは、耳元に聞こえるハルちゃんの静かな寝息に阻まれた。
いまは叫ぶのは止めようと思った。
彼女はお昼寝もしていない上に、おそらく初めての恐怖体験にぐったり疲れているに互いない。
私も今朝はいつもよりずっと早く起きた。新幹線の中でも、織物の歴史の資料を読み、寝るどころではなかった。
幸い余震は時々あるにせよ、微かな揺れになっていた。おかしな話だが、その揺れはどこかゆりかごの揺れに似ていた。
睡魔が急激に押し寄せた。
極度な緊張と恐怖の連続で、私も精魂尽きていたのだ。
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