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エピローグ
ライターの村上さんのノートはすでに閉じられていた。
彼女は私の話にじっと耳を傾け、時に深く頷きながら、きちんと私を見ていた。
「その時の絵本は、私の運命の一冊になりました」
村上さんは深く唸き、考えを巡らすように沈黙した。
「あの時の経験で私は、物語には、人を救う力があることを強く感じました。私がその後、ライターを辞めた理由は、肉体的ことではないということです」
彼女はノートを開き、素早くペンを走らせた。
「でもね、村上さん。ライターもいい仕事よ」
と言って、私は微笑む。
その時、ドアが開く音がし、足音と共にセーラー服が見えた。
「ただいま!あ、お客さん。こんにちは」
「おかえり」
私はそう言ってから、娘ですと村上さんに紹介した。
「取材はもう終わったから、散歩ついでに村上さんをバス停まで送って行きましょう」
村上さんはありがとうございますと一礼し、鞄を持ってスッと立ち上がる。
「じゃあ、お願いしますね、ハルちゃん」
私の言葉に、村上さんが驚いた顔で私と娘を交互に見た。
「ハルちゃんって・・・」
娘が私の座っていた車椅子の後ろにまわり、手押しハンドルを握るのがわかった。
私は、村上さんに言った。
「その話は、バス停までの道々、お話します」
ハルちゃんは私の車椅子を、そっと押し出す。
前へ、 前へ、 未来へ。
【了】
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