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大熊くんは悪魔にでも遭遇したみたいに、怯えきっていた。
でっかいのがしょんぼり肩を落として遠ざかっていく姿は、ちょっと哀れでおかしかった。
じゃなくて、しおらしかった。
大熊くんよりも、大熊くんに仕事を押し付けるクラスメイトが悪いのは分かってる。
でも、後先を考えず安易に引き受けてしまう彼を見ていると、あたしのイライラポイントが妙に刺激されるのだ。
結局、あたしがすすめた三冊だけを手にして教室へ戻ったようだけど、あの様子で大丈夫だろうか?
もう、あたしがカウンターにいるときに、図書室へ立ち寄ることはないだろうな。
そう思っていた次の日。
図書委員の仕事を真面目にこなしていたあたしの上に、大きな影が落ちた。見上げれば、もう顔を合わせることはないだろうと思っていた大熊くんが立っている。
「うわ、出た」
かなり失礼な発言をしたけど、大熊くんは聞こえなかったのか、あるいは聞こえないふりをしたのか。
何事もなかったかのように、あたしに話しかけてきた。
「こんにちは、三上さん」
「あれ。あたしの名前知ってたんだ?」
「知らなかったけど、知ってる人に訊いた」
「へーえ。そうなんだ」
たまに図書室にいる、キレがちの女子の名前知ってる? って訊いたんだろうか。さすがにそれは被害妄想が激し過ぎるかな。
「三上さんって、本に詳しい人?」
「詳しいってほどでもないけど、図書室の本なら、ある程度は読んでるよ。『今月のオススメ本特集』も書いてるしね」
「じゃあさ、三上さんのおすすめ本を教えてくれる」
思ってもみないことを言われて、あたしはしばらく、無言で大熊くんを見つめた。
「それも、友だちからのお願いなの?」
だったら超お断りなんだけど。
言いたいことが眼差しから伝わったようで、大熊くんはブンブンと大げさに首を振った。
「いやいや! 今回はそんなんじゃなくて。たまには本でも読んでみようかなぁと思って」
「あっそう。ふうん」
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