ギムレット

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◆ 「いらっしゃいま……… って、今日もアナタですね」 「今日も今日とて寂しい店ね」 「その悪趣味な定型文、どうにかなりません?」 「いつものって聞かないの?」 「………どうせそうでしょ」 「うん。 にしても、やっぱり垢抜けないね、君は」 「え、いきなり悪口」 「一番はその話し方かな。 そろそろ昔いた土地の言葉なんて捨ててはどう?」 「何回も言いますけど。 俺は絶対、東京には染まらへん」 「あーやだ。西の民はみんなそう言う。 共通のプログラミングでもされてるの?」 「アナタも西の民でしょ」 「私はこっちに来たと同時に捨てたもの。母国語は」 「…… そろそろやめません? カッコつけて関西弁のこと母国語って言うの。 とにかく俺は変えませんよ」 「意地が強いわね」 「いや、それはそっちでしょ。 意地張って無理にかえようとするから、 そうやって不自然な話し方になるんすよ。 なんかエセっぽいというか。 あと、たまにイントネーションもおかしいし」 「でもほんと、 思い出しちゃうからやめてほしいなぁ」 「よう言うやないですか。 男は『名前をつけて保存』で」 「あー、女は『上書き保存』ね」 「そう。だから上書きしたらええんですよ」 「アップデートする程の容量、空いてないわ」 「……次から炭酸あるのにしたらどうですか」 「どうして?」 「泡と一緒に、消せるかもしれんでしょ? ストレージ圧迫させとる、そのゴミを。 "ジン・トニック"とかね」 「あら。シャレたことも言えるのね」 「自分で捨ててくれたらラクなんですけど」 「蓋が重いのよ」 「いやいや。持ってみたことなんてないやん」 「まあ、今はね」 「……で?グラス空いてますけど」 「ありがとう、もらうわ。 いつものギムレット」 「はーい……」 ◇
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