22人が本棚に入れています
本棚に追加
焦り
「和也、今の何だよ!?そんな技、見たことがないぞ!」
「ふっふっふ、宗介くん。僕は日々成長しているのだよ」
俺は月に2度だけ気晴らしに、地区の健康促進センターの卓球台を借りて和也と卓球の練習をすることにした。
月2だなんて言わずもっと練習したいところだが、親が許してくれない。
月2だって、気晴らし、運動、高校に入って下手になっていたら困るという理由でなんとか許して貰えたのだ。
しかも、月に一度あるEIKAの全国模試の順位が上がったらという条件付きで。
文化部だった3年生も受験モードに切り替え始める11月中旬。
かれこれ5回目の練習だが、明らかに俺より上手になっている和也。
中体連県大会の結果は俺がベスト32、和也は初戦敗退だったのに。
「あー、チクショウ。時間かぁ…。もっとやりてぇ」
気持ちの区切りをつけるために、水筒のお茶の残りを一気飲みする俺。
「ごめんな、俺この後もクラブなんだ。宗介も塾だろ」
ちっとも息が上がっていない和也。
クラブにはきちんとした指導員がいるらしく、技術も体力も明らかに向上している。
本当に「羨ましい」の一言に限る。
数ヶ月前まで俺だって一日中練習していたのに、実はほんの2時間打ち込んだだけの今、息が上がっているのを隠すのに必死の状態だ。
例え山野高校に入学出来たとして、こんなザマで卓球部に入部してやっていけるのだろうか。
俺は不安でいっぱいになり、なんとか月2から週1練習まで持っていけないか考えるが、実はそれどころではないということにも気がつく。
先日結果が出たEIKAの全国模試、山野高校はB判定の『受験可能圏』。しかも真ん中の方。
一応B判定であれば、合格する可能性はあるということなのだが……。
「そういえば、この前の全国模試には和也来なかったな。申し込み忘れたのか?」
5月と10月であれば塾生以外は無料で受験できるので、同じ中学の奴らも沢山受けに来ていた。
「いや、模試は学校で受ける実力テストだけで充分かな、と思ってさ」
そんな時間があるなら卓球の練習をしたい、そういった顔だ。
「実力テストか……あれは県内順位が出るんだっけ」
10月中旬に行われた実力テスト。そろそろ結果が帰ってくる頃だ。
理科と社会は塾で繰り返し学習していたためか、割と自信がある。
問題は英語なんだよな……。
全国模試でも英語の点数が悪かったので、きっと塾の補講を受けることになるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!