milk

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聖花さんとの出会いは2ヶ月程前に遡る。 俺のバイト先であるコンビニに客として聖花さんはやって来た。客足が落ち着いた午後8時頃だ。 煙草の補充をしていたら背後でドンッと大きな音がした。振り向くと、切れ長の猫目と視線がぶつかる。目の印象が強く、睨まれていると思った俺は慌ててレジを打つ。 カゴの中は2リットルの水とゼリー飲料のみで、それが溢れんばかりに大量に放り込まれていた。自動レジに万札を入れ、出てきたお釣りはお札も小銭も一緒くたに握られて黒いアウターのポケットに消えた。「ありがとうございました」と大きく膨らんだ袋を渡しながら、持てるのか?と思って見ていたら案の定レジ台から降ろす時に腕を持っていかれていた。 「あの、車まで運びましょうか」 大荷物だから勝手に車だと思い込んで尋ねたら、まさかの徒歩だと言う。足元がおぼつかないままふらふらと店を出ていこうとする背中を黙って見てられなかった。 「家の近くまで持ちますよ」 鋭い猫目が俺を捕らえる。断じて下心とかはなく本当に思わず声をかけてしまったのだけど、普通に考えたら不審がられて当然だ。「なんでもないです」と早口で前言撤回して作業に戻ろうとしたら予想外の返事が返ってきた。 「じゃあ、お願いします」 そうして、辿り着いたのは木造の古いアパートだった。申し出たのは自分なのだけど、こんな風に知らない男を家まで連れてきてしまうなんてこのご時世に危なっかしい人だなと思った。 「その辺に置いてください」 そう言って彼女は電気もつけずに中に入っていってしまう。玄関の脇に袋を置いた時、暗がりから彼女が戻ってきた。 「ありがとう」 そう言って渡されたのは一万円札だった。いきなり差し出された奇妙なそれに俺は驚き、受け取れない旨を伝えたら「なんで?」と返ってきた。なんで?ってそんな不思議そうに言われても。 「荷物持ってきただけでそんな大金貰えないです」 「じゃあ、半分の五千」 「いや、そういう意味でもなくて」 「なら、君がバイトの日、水とかゼリー飲料を買って持ってきてほしいんだけど。これがそのお駄賃」 ぶっ飛んだことを涼しい顔をして提案される。変な人だと思った。変すぎる。思わず凝視した彼女の顔は驚くほど綺麗だった。なんだか怖いくらいに。 「どう?」 「あ、えっと、⋯てか、余計なお世話かもしんないすけど、ネット通販とかで買った方がラクなんじゃ」 「分かった」 急にあっさりと答えて背を向けてしまう。俺は気づいたらその背中を引き止めて彼女の提案を承諾していた。背を向けた時の彼女が心なしか傷ついたように見えたから。俺の都合のいい解釈かもしれないけれど。
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