milk

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天使と住んでいる。 そう言ったら、人は俺を頭のおかしいヤツだと笑うだろう。 バイトから帰宅すると、玄関にお湯と石鹸の匂いがもわもわと籠っていた。開けっ放しになっている浴室のドアを閉めて部屋に足を踏み入れた瞬間、俺はその場に硬直することになる。 「あ、おかえり」 振り向いた聖花(せいか)さんが言う。なぜか下着姿で。 「⋯何してんすか」 「いつも着てるTシャツがなくて」 漁っていた収納ボックスを戻して聖花さんが立ち上がる。黒いスウェット生地の下着が目の前に晒され、俺は視線を逸らしてベランダに干してある部屋着を取って差し出す。「ありがとう」と呟いてもぞもぞ頭に被る姿を一瞥して、離れた。 「そこに落ちてる服、ちゃんと洗濯機に入れてください」 「んー」 冷蔵庫を開けて、夕飯の献立を考える。1人の時は自炊なんて滅多にしなかったけれど、聖花さんが来てからはそれも一変した。 聖花さんが俺の部屋に住み着き始めたのは1ヶ月前のこと。 聖花さんのアパートの家主が突然土地を売り払うことになり、立ち退き費用の3万を握り締め、身ひとつで転がり込んできた。これを渡すから少しの間部屋に置いてくれと。 突然追い出された代償が3万って確実におかしいのだけど、聖花さんが住んでいた激安ボロアパートの家主は相当金銭的に困っていたらしい。 なけなしの3万を握り締めて半泣きになっていた聖花さんを追い返すことはとてもできなかった。そうして、いつのまにか2ヶ月が経ち、聖花さんは最初からここが自分の家だったみたいにのびのびと居候している。
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