milk

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洗い物を終え、シャワーを浴びる。シャンプーなどの石鹸類は全て共用だ。こだわりがあるのなら好きに置いてくれと伝えたのだけど、俺がいつも使う市販のものを聖花さんも使っている。 テキトーに選んだ安いやつだとなんか申し訳なくて、この前、大学の女友達にそれとなく聞いたおすすめの市販のやつに変えてみたのだけど、聖花さんは気づいているのかいないのか今のところ何も感想はない。2人の髪の匂いがいつもより甘ったるくなっただけ。 部屋に戻ると、聖花さんはソファに座ってうたた寝をしていた。ショートパンツからすらりと伸びる足は骨みたいに細くて白い。 「聖花さん」 声をかけると、ぴくりと肩が揺れる。眠そうに目を擦るのでベッドに促すと、素直に布団の中に潜っていった。 ソファでスマホを弄っていると洗濯機が鳴った。取り出して、カーテンレールにかけたピンチハンガーに干す。当たり前のように聖花さんの下着も毎回混ざっている。上下セットの黒無地。いつもこれ。サイズはもちろん見たことない。 歯を磨き、電気を消して横になる。ショッピングサイトで一番安かった敷き布団は薄くて寒い。大学生になると同時に一人暮らしを始め、親がくれた予算のほとんどを費やした憧れのベッドは今は聖花さんのものだ。 「壱くんってさ」 「わっ、起きてたんすか」 「好きな子とかいるの?」 唐突な問いかけに「へ?」とマヌケな声が漏れる。聖花さんにそういう個人的なことを聞かれたのは初めてだった。 「なんでですか」 「シャンプー変わったから好きな子でもできたのかと思って」 「あぁ、あれは聖花さんも使うならもうちょっと良いやつの方がいいかなって。まあ、あれも市販なんすけど」 「そうなんだ」 いつもと同じ淡白な返事。 「で?」 「え?」 「好きな子いないの?」 思わずベッドの方を視線で見上げた。聖花さんがこうして固執して聞いてくるのは珍しい。ここからは顔の表情は見えず、膨らんだ布団と気配だけがそこにある。 「いないです」 「ふうん」 「もし、自分がいるから俺が恋愛できないとか考えてるならマジで気にしないでください。聖花さんは好きなだけここにいてくれていいです」 「優しいね」 優しい。聖花さんはいつも俺をそう評する。優しさの向こうを見抜いた上での牽制なのか、ただの鈍感なのか。 聖花さんのことが好きだ。だけど、それを自分から伝えることはこの先ない。聖花さんが俺を異性として見ていないのが分かるから。名前のないこの関係は当たって砕けたらそれで終わりなのだ。 しばらくしないうちに微かな寝息がすうすうと降ってくる。明日の講義は午後からだ。だけど、朝イチで病院の予約を入れているという聖花さんを起こすためにアラームを設定して目を瞑った。
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