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「先輩ー」
「はい」
「あれ。高宮先輩？どこいった？」
「…………いるでしょ。目の前に」
「おかしーな。
さっきまで席に居ってんけどなぁ」
「……………………」
「しゃーないな。
仕事サボってんでって、部長に報告してこよ」
「んもーーーー！！
うるさいな！毎回毎回、人の真後ろで！」
「ああ、こんなとこ居ったんすか。
探しましたよ、先輩」
「なんて白々しい……。
確実に、私の後頭部見ながら話してたじゃん」
「いやー、小っちゃいから見えんかったなぁ。
名前は高宮やのにね」
「ちょっとほんとにさぁ……そろそろ飽きてくれない？
このやり取り、何回やれば気が済むの」
「いやぁ、つい。癖で」
「悪癖すぎない？
……これでも気にしてるんだけど。背のこと」
「えー、気にすることないのに。
そやなあ……先輩が俺の身長越せたら、やめてあげますよ」
「……一応聞くけど。神崎くん、何cm？」
「確か、前の健康診断で181って言われたな」
「私は、」
「148」
「えっ……他人の身長、真顔で即答できるのコワくない？
いや、それよりも。
約30cm差埋めるのに、どのくらいかかると思ってるの」
「そんな日、来るわけないやないですか」
「なっ！？じゃあ最初からやめる気ないじゃん！」
「はは。なんでも本気にしたらダメっすよ」
「くそぅ……底なしに腹の立つ……。
でも、いいもん。あと12ヶ月だもん」
「まだ言ってるんですか？
その根拠のないカウントダウン」
「根拠しかないよ。
うちの部署、みんな3年経ったら異動してるでしょ」
「業連見てません？
今年度から人事制度変わって、1年延長の希望出せるよ〜て書いてたやん」
「"希望出せば"、ね」
「出してよ」
「なんでよ！というか、何の用事？」
「さっきの資料、ここ誤字ってましたよ」
「……いつもありがとう。
でも次回から、もっとスッと教えてくれない？」
「じゃあ、こうしましょう」
「何」
「先輩が、延長希望出したら考えます」
「それでもまだ『考える』なんかい。
決めた。絶対に出さない」
「ヒドイ。
1年間可愛いがった後輩が、どうなってもええの？」
「可愛い後輩 is どこ」
「それこそ目の前におるやん。
あ、見えん？もうちょい屈んだほうがいい？」
「……お気遣いどうも。
小憎たらしい坊やの顔なら、もう十分見えてるよ」
「俺には高宮先輩が必要なんです」
「何言ってんの。業績トップのくせに。
せいぜい『遊び相手として』の需要でしょ」
「……ねぇ。
ハタから見たら、俺ってめっちゃわかりやすいらしいですよ」
「そうなの？ってか、いきなり何のこと」
「本当は気付いてるんでしょ？」
「え、だから何に」
「それが言えるような可愛い性格なら、苦労してないっすよ」
「よくわかんないけど、仕事しな？」
「わかった。じゃあ、こうしましょう」
「また？次は何」
「うちの部、毎月のようにイベントやってるやん？
出たことないけど」
「うん。出たことないけど」
「それに出ましょう。俺と」
「なんで！？ヤダよ。私、インドア代表なのに」
「部署に愛着沸けば、離れ難くなるかなって」
「え、余計にヤダ。寂しくなるだけじゃん」
「一生のお願い」
「……何？実行委員の回し者？マージンあり？」
「ないっすよ、そんな裏」
「じゃあ何で。突然」
「これ以外に思い付かんねんもん」
「わかった！ドッキリだ。
当日行ってみたら私しかいないー、とか？」
「そんなガキっぽいことしませんよ」
「いっつもしてるじゃん！近いこと」
「出てくれるなら、もう身長のこと言わんから」
「え………………ほんと？」
「はい。"本気"と書いて、"ホンマ"です」
「……なにそれ。"マジ"の関西バージョン？」
「で、どうします？」
「えーーー…………休日に外出るの、ヤだなぁ……。
でもこれ以上、揶揄われるのも嫌だしな……」
「ちなみに。
各イベントの昼食代・飲み代は、全額会社負担らしいっす」
「え、知らなかった。気前いいじゃん」
「交渉成立でええですか？」
「……出るの、1回だけでも良い？」
「ダメ。今年度のやつ全部」
「えぇ……どっから来るの、その謎の熱意。
まあ、月イチなら……いいか……？
不審な点しかないし、全く気は進まないけど……」
「じゃ、約束ね」
「……うん。でもその代わり、」
「はい。俺も約束します。
身長のことは、もう言いませんよ。
"身長のことは"ね」
「しまった！もっとオプション付けるから待って」
「残念。もう変更不可です。
早速、今週末に［お花見］あるらしいっすね。
じゃ、2人分参加登録しとくんで」
「えー……その行動力、もっと有益なことに活かしてくれないかな」
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