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《疑い》
フェイタル・ドーズ王国に観光と結婚式を挙げる予定であるブラン・リストールは結婚相手で同性のハロリア・ウィンに疑いの眼差しを向けていた。
ハロリア・ウィンことハルはこのフェイタル・ドーズ王国出身で、ブランとはイギリスで出会った。
ブランはイギリス人ではあるがフェイタル・ドーズ王国は英語でも通じる。ゲイバーで声を掛けられ意気投合し、幾度も身体を重ね……ハルの方から結婚の申し出を受けたのだ。
率直に言って嬉しかったのだが、ハルと出会ってから異変が生じた。ハルと出会うと事件が起こり、ハルと性行為を行うとその日に人が死ぬのだ。
しかも食い散らかされて殺されているというので警察は大変困った様子であった。犯人は防犯カメラのない場所を狙い、血痕を残すものの跡形もなく食べられてしまうらしい。
ブランは非常に恐れたがハルがそんな人ではないことを確認するために、挙式を挙げる予定の地に訪れた。ハルがどういう人なのかを知りたかったのだ。
ホテルの窓を開ければふわりと大地の香りがする。さすが避暑地としても有名な場所だ。ほどよい風が通る。
窓の傍から森を眺めていると肩を叩く者が居た。ハルだ。
ハルは端正な顔立ちで鼻梁も深く、彫りのある顔立ちをしている。しかも背も幾分高い。一目で気に入った相手だ。
「どうだ、俺の故郷は? いい所だろ」
「うん。そうだね……。ここで愛を誓うんだね」
ブランの栗毛色の髪がなびく。するとブランの熱い胸板にハルが手を寄せて引き寄せた。
それから流れるようにキスをする。深く甘いキスだ。
「俺から逃げられないように、お前を幸せにしてやるからな」
獰猛だが虜にされてしまいそうな青い瞳にブランの心が揺れる。噂だと、この王国ではフォークと呼称される人食い人間が居るらしい。
そしてケーキと呼ばれる無自覚ながら生きている人間も。もしかしたら自分はそうかもしれないなとブランの顔が優れなくなっていく。
「どうした、ブラン? なにかあったか?」
「な、なんでもない。……僕、挙式の会場見てくるよ! ハルは待ってて!」
「あ、あぁ……」
寂しげなハルを置いてブランは挙式である結婚式場へ向かった。山の上にある教会では牧師が忙しなく働いている。その姿を目で追いながら……一人の青年に気が付いた。
黒髪を束ねた漆黒の黒い瞳にチャイナ服を着た変わった青年。少し伏せ目をしたそのその彼に、ブランは近づいて声を掛ける。
「すみません。一週間後にここで挙式を挙げさせていただくブラン・リストールという者です。担当の牧師様はいらっしゃいますか?」
黒髪の青年の瞳孔が開き、生唾を飲む音が聞こえた。どうしたのだろうかと思っているとか細い声で「ハウリィ様なら、俺が案内します」紛らわすように背を向けてしまう。
ブランは首を傾けたままハウリィ牧師のところへ案内されるのだ。
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