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「…、…ぃ……っ」
彼の手が、急くように俺の腰を引き戻す。
背後から這う指先が、胸元の突起に触れる。
浅く埋め込まれた先端が、小さく抽挿を繰り返し、そのたびに慣れない違和感と圧迫感に息が詰まりそうになる。
「京介さん、…力、抜いて……」
「ばっか…もっと、ゆっくり……っ」
気持ちが伴っているからか、身体は確かに熱を帯びている。
即物的な煽りを受けると、萎えかけていた屹立もすぐに硬度を取り戻す。
けれど、こう言った行為自体は初めてで、いまいち勝手がわからない。
それが彼にとっても同様とあれば、尚更だ。
「…ぅ、あ…っ……」
それでも、片手で胸の先を柔らかく撫でられ、屹立を緩やかに扱かれると、ふとした瞬間に身体から力が抜ける。
その瞬間を見計らって、彼は徐々に腰を進めた。
時折、自分のものでないような熱っぽい吐息が口から漏れて、そんな自分に酷く戸惑う。
だが、戸惑いながらも、悪い気はしなかった。もちろん、羞恥は酷く感じていたが。
「…あぁ……っ、ア…!」
ようやく全てを収めきった彼が、内部で何かを探るように腰を押し付け、次の瞬間、唐突に背筋を駆け抜けた甘い痺れに俺は思わず声を上げた。
するとその後は、執拗なくらいにその点ばかりを攻め立てられて、堪えきれない嬌声ばかりが口をついた。
かみ締めていた唇も次第に緩んで、何を言うでもないのに小さく開閉を繰り返す。
「京介さん…、気持ちよく、なってきた…?」
「ンなことっ…いちいち、訊く、な――ぁ、んあ……っ」
枕に顔を押し付けて、せめて声を殺そうとしていたところで、それを阻むように彼は深く腰を突き入れた。
正直、それほど経験はないだろうと思っていたのに、その翻弄するような、焦らすような仕草には不覚にも振り回された。
その結果、断続的に込み上げる射精感を堪えようと浅く呼気を逃しても、結局追いつかず、彼の動きに追い縋りそうにすらなって――。
「よせ…も、だめ、だ……っぁ、ぁあ……っ!」
次の瞬間、充血して雫を落としていた屹立を同時に追い立てらると、俺は呆気なく白濁を放っていた。
ぱたぱたと滴る残滓がシーツを汚し、一瞬の強張りの後、弛緩した身体を彼の腕が優しく受け止める。
疼くような余韻の中、そうして触れ合っただけの肌の刺激すら鋭すぎて、下半身が勝手に震える。
「…夕、貴」
半ば無意識のまま呼びかけた声は、知らず上擦って掠れている。
「……なに、京介さん…」
言葉だけでなく、所作でも応えるように腰を引かれて、そこから聞こえた水音と、次いで何かが下肢へと伝い落ちる感触に、いつのまにか彼も達していたことを知った。
ありえない…。
そんなこともわからなかったのかと、あまりの自分の余裕の無さに無性に遣り切れない気分になる。
だけど、よく考えたら自分がそんな状態に陥ったのは外でもない彼の所為で――。
(くそ……)
思い至ると、ついやつ当たりめいた態度に出そうになったけれど。
「もう、これからは遠慮しなくてもいいよな」
次いで落とされた呟きと、背中に感じる彼の体温の心地良さに、結局全てを許容してしまいそうになる。
「あ、や…遠慮って気持ちの話だよ。別にこういうことばっかしたいって意味じゃなくて……」
「そんなのは言われなくても解ってる」
「あ…、そう、だよな。…良かった……」
最初の告白とは打って変わって、声音は酷く穏やかで、安堵の色に満ちている。
(仕方ない……)
彼を責めるのだけは、とりあえず今夜は止めておいてやろう。
…だけど、あんなにも前後不覚になることだけは今後はないようにしたい……。
俺は決意も新たに、再びそっと目を閉じた。
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