君のとなり

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▶【夕貴を壁際に寝かせる】 (やっぱり俺が外側…だな)  少し迷ったが、結局俺は夕貴を壁際に寝かせることにした。  途中、掛け布団に紛れていた自分のジャケットに気付いて壁際のハンガーにかけなおし、改めて布団の中に入る。  子供みたいに半端にかかっていただけの彼の肩にも布団を被せて、俺は仰向けのまま静かに目を閉じた。  俺は基本的に眠りが浅く、僅かな気配や物音ですぐに目が覚めてしまう性質だ。  だが、かと言って寝つきが悪いわけでなく、寧ろ眠りに落ちるまでは案外早い方だった。  なのに、その夜ばかりは何故だか妙に目が冴えて、さっきまでの眠気が嘘みたいに、眠ろうと思えば思うほど、どんどん頭の中がクリアになっていった。 (……何なんだ)  とにかく頑なに目を閉じたままだったが、ふと隣で寝返りを打った夕貴が、寝ぼけているのかぴたりと俺に擦り寄ってきて、しかもその手が抱きつくように俺に絡みつくと、流石に放っておくわけにもいかなくなる。 (……っ)  俺は慌てて目を開けて、彼の腕を外そうとした。  しかし、彼の腕にはますます力が込められて、俺は仕方なく強引に身体を起こした。 「ん……なに、どうしたの京介さ……」  強制的に外した彼の腕が、ぱたりと布団の上に落ち、僅かに浮上した意識の中で、彼が俺の名前を呼ぶ。  だけど俺はそれには応えない。応えないと言うより、応えられなかったと言う方が正しいかもしれない。  だってもう、まったくそれどころじゃなくなっていて――。 (な、んで俺……、…勃ってんだ……)  確かに、彼に抱きつかれた時、過剰に心臓が跳ねた気はする。  子供にされているとでも思えば、適当にあしらうこともできただろうに、それが不可能だったのも確かだ。  いまだって、ただ名前を呼ばれただけなのに、それだけで有り得ない衝動が一瞬頭を擡げたようだった。  その全てを気の所為だと思いたくて、緩く頭を振るものの――。 「…きょ、すけさ……」  見ている夢の所為なのか、再度名前を口にされて、結局俺は彼の上に影を落とした。  だいたい、寝言で俺の名前を呼ぶと言うのも変な話だ。  もちろん、たったそれだけのことに容易に煽られている自分自身が、一番わけが解らないが。  とは言っても、この衝動が何なのかくらいは俺にもわかる。  単純に、見れば解る状態になっているのだ。  こういう時、本当に男は不便だと思う。  そうなってしまえば、まるで誤魔化しはきかなくなってしまうのだから。 「京介、さん……」  と言うか、更に解らないのは、直後目を覚ました夕貴がまるで拒絶する様子もなく、それどころか自分から俺の首に両腕を絡めて来たことだ。  寝ぼけているのかと思ったけれど、薄っすらと開いた瞳の焦点は合っているようだし、何より彼が幾度となく口にしているのは、いま正に目前にいる俺の名前――。 「夕貴…お前、わかってんのか……?」  しかも、黙ってさせるに任せていると、そのまま唇まで寄せられそうになり、流石に俺も声を上げる。 「…ぅ……っ」  だが、それに答えるより先に引き寄せられて、刹那には強引に口付けられていた。  抗うべきだとわかっていても、一方ではそれを受け入れたいみたいに、思うように力が入らない。  そもそも俺は、これまで生きていて同性に欲情したことは一度も無かったはずだ。  なのに、角度を変えて徐々に深まる口付けに、やがて率先して応えるまでになっている。 「……ん…っ…」  時折漏れる、彼の吐息が酷く近い。  赤味を帯びて、熱っぽく潤んだ眼差しから目が離せない。 「夕、貴っ……」  もう、無理だと思った。  そして思った瞬間には抱き締めていた。  俺よりも少しだけ体温の高い、彼の身体を。
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