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首筋に唇を滑らせながら、前ボタンを全て外すと、急くように素肌に手のひらを滑り込ませる。
脇腹から胸元へと這うように指先を辿らせて、やがて掠めた胸の頂きに爪先で優しく触れると、彼の身体が小さく跳ねた。
「京介、さん…? え、ちょ…、なっ……」
途端。
急に我に返ったかのように、彼は俺の首から腕を緩め、困惑気味に視線を彷徨わせる。
「今更止めろなんて言うなよ。お前が誘ってきたんだから」
「え…お、俺が?」
問い返された言葉には答えなかった。
答えないまま、俺は下肢へと手を伸ばす。
衣服は下着ごと一気に引き摺り下ろして、性急にその狭間へと指先を忍ばせた。
「や…っぁ、…そんな、…う…嘘……っ」
戸惑いながらも、彼の屹立は既にしっかり反応を見せていて、溢れる先走りは止め処なく、その根元まで滴り落ちるほどだ。
身動げば背後まで線を描いて伝い、意図せず俺の指先に絡みつく。
緩慢な手付きで入り口を擦り、浅く抽挿を繰り返すと、馴染んだ雫が微かな水音を立てた。
「ぃ…っあ、待……っ京介、さ…っ……」
内壁を指先が擦り上げるたび、彼はゆるゆると首を振る。
今頃我に返ったと言うことなのだろうか。
そして本当なら、こんなことは微塵も望んでいなかったと…?
もしそうだとしたら、俺は即刻手を引くべきだ。それは頭ではわかっている。
だけど、身体の方はそうも行かない。
「……力、抜いてろよ」
俺は結局踏み止まれず、彼の両足を抱え上げた。
「あ…や……京介さ…っ、待…待って……っ」
僅かに弛緩しただけのその場所に、自らの先端を押し当てると、先を予見したのか彼の身体が一気に強張る。
それでも強引に腰を進めようとすると、彼の眉根は悲痛に歪み、そのくせ求めるみたいに両手が俺へと差し伸べられた。
頭を落とし、優しく抱きとめるようにして彼の頭を撫でると、待っていたかのように再びその腕が俺の首に絡む。
「ん…嫌な、わけじゃないんだ…。実は俺……夢の中で、何度もこうされてた、から…。……京介、さんに」
そうして、近まった距離に彼は、とんでもない告白をした。
名前を呼んでいたくらいだから、夢に俺が出ているのは間違いないだろうと思っていたが、まさかそんな即物的な夢だったとは思いもよらず…。
だが、同時にこれが確かに、彼の本意であると知れて良かったとも思った。
「……話は、また後でな」
懸念が晴れると、まるで箍が外れたみたいに一気に情欲が増した。
俺は彼のタイミングを見計らうこともなく、一息に最奥まで腰を押し進めた。
「…ん…っぁ、……あぁ…――っ!」
殺し損ねた嬌声が、狭い安アパートの部屋に響く。
もちろん壁は薄いから、きっとこんな夕貴の声など、隣の部屋まで筒抜けだ。
下手をしたら、下の部屋まで届いているかもしれない。
「あ……ぅ、んん…っ……」
俺は慌てて彼の口をキスで塞いだが――。
きっとそれも最後までは続かないだろうと、だからこそ隣人たちはとっとと就寝していますようにと。
同時に幾度となく心から願うのだった。
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