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有翼のシェリン
翼肢病―――、通称エンジェル病と呼ばれるその感染症はかつてパンデミックを引き起こし、収束宣言がなされるまでに世界人口を五十分の一に大幅に減らした恐ろしい病だった。
名前の由来はその異様な症状にある。
風邪の諸症状から始まる循環器の炎症に加え、背より生え出す筋肉組織は激痛と共に人体には無い筈の翼を生やした。
その原因となるウイルスは、祖国であったサニアス帝国が再生医療に活用していた技術を悪用して造った生物兵器であった。
当時は闇に葬られたが、祖国が複数の隣国に仕掛けた戦争に大敗し、何百年と続いた皇帝による統治が崩壊した今、その事実は世界の知る所となった。
「ねえレオ、見て!パパが手紙と一緒に今年生まれた仔馬の写真を送ってくれたの!私と同じ、エンジェル病なんですって!ほら!ペガサスみたいでしょ!」
いつものようにレオの隣にやってきた彼女は、嬉々と父親からもらった写真を見せる。
写っていたのは羽を生やした可愛らしい仔馬だが、その周りには物々しい他国の軍服が映り込んでいた。
シェリンの父親は皇室御用達の看板を背負った代々続く牧場を営んでおり、今は喧嘩を売った他国の監視を受けている。
理由はその牧場がエンジェル病を爆発的に増やした起爆地点と特定されているからだ。
エンジェル病の原因ウイルスは羊類の家畜を媒介者とし、驚異的な感染力で蔓延する。
シェリンの父親の牧場は運悪く、国の生物兵器の培養所にされてしまったのだ。
その挙げ句、当時シェリンを妊娠していた母親はそのウイルスに感染。
母の命と引き換えに生まれてきた彼女の背には立派な翼が生えており、彼女は世界初となる先天性エンジェル病患者として、ずっとこの病院に生まれてからずっと収容されている。
時折連れて行かれる地下の研究施設では、様々な実験が行われいるらしく、近頃の彼女は背の翼で飛ぶ訓練を受けているそうだ。
当人は楽しそうにしているが、日増しに増える痣と謎の薬の量には眉を顰めずにはいられない。
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