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「…それでね!イルカと一緒に沖までビューンと飛んでくの!」
「それ良いね…!」
昼餉の時間、重い足取りで食事を渡しにシェリンの病室へと向かったミリーは隣から聞こえる楽しそうな声に小首を傾げた。
隣の病室を覗いてみれば、彼女と同じく長年この病院に入院しているレオのベッドに座り、シェリンが楽しげに夢を語っていた。
レオもまた彼女が長年、担当している患者なのだが、年々その病状は悪くなっていて、立つこともままならない今ではもう心臓移植しか助かる道が残されていなかった。
「失礼〜!お二人さんご飯の時間よ〜!」
いつも通りの明るい声で病室に入り、にこりと微笑む。
本当は現実に泣きそうだった。
大人たちの身勝手で、今日までの命かも知れないシェリン。
そして、そんな彼女にレオが密かに想いを寄せている事も知っていた。
「ねえ、二人とも…」
「「ん?」」
食事を摂りながら、二人は無垢な視線を向ける。
「…もし何処か行けるなら、二人は何処に行きたい?」
徒な質問だった。
すると二人は互いの顔を見合って、にっと笑った。
「「エルファ島!」」
揃えた声で帰ってきた答えは、可笑しなくらいに元気だった。
二人の言うエルファ島はここからずっと南にある隣国の孤島だ。
独特の文化に温かな気候が特徴で、碧い海と緑豊かな環境に楽園とも称されている。
「丁度、レオと話していたの!とっても海が綺麗なんですって!私、浅葱色の海の上を温かな風に包まれて自由に飛んでみたい!」
「父さんが言ってたんだ。カローラスのエルファ島には星乙女伝説って言う天女と竜の伝説があってね…!」
嬉々と夢を膨らませる二人に、ミリーは食後の薬の準備をしながら、いつも通りにはいはいと相槌を打って耳を傾ける。
こんな細やかな日々が続けば良かったのに―――。
腹の底に仕舞った叶わぬ願いに、刹那そっと瞼を伏せた。
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