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海と空の狭間
夜が明けて明るくなった空の色は鮮やかな茜と抜けるような青が入り混じり、とても綺麗だった。
けれど、それを悠長に眺めていられるほど、二人には時間も体力も残されては居なかった。
国境の町で一旦、降り立ってから数時間。
休もうと何度となく地上に降りようとしたけれど、その度に二人を血眼で探し回る軍隊が待ち伏せていた。
恐らく国境の町から通報が入ったのだろう。
一度起きたレオの発作は次第に感覚を縮めて強まり、薬が切れたのかシェリンも鼻血が出始めた。
苦肉で空中でリュックを漁ろうとしたけれど、その時になってリュックの側面が大きく裂けていた事に気付いた。
病院からの脱出時、狙撃された一発が掠めたのだろう。
穴の空いた布地からはごっそり食べ物が無くなっていて、命綱である二人の薬も容器が割れ、そこから入った道中の雪で湿って溶けてしまっていた。
「レオ、頑張って…!ほら、見えてきたよ!」
腕の中、弱っていく彼を励ましながら、シェリンは微かに見えてきた南の孤島を視線で示す。
腹の底から込み上げる吐き気と共に、口の中に鉄の味がした。
もう時間がない―――。
せめて彼だけでも―――、彼だけは助けたい。
苦しさの中で涙を浮かべ、懸命に翼を動かす。
紺碧の海の上、手頃な休める陸地は見当たらない。
ここで羽ばたきを止めてしまったら、牙のように荒立つ波に呑まれてしまう。
凍てつく潮に触れたら最後、二人とも命はない。
「…シェリン…っ…」
消え入りそうな微かな呼び声に震える腕に力を込める。
元気に大きな声で励ましたかったが言葉を発しようとした途端、迫り上がった血が言葉を押し退け、代わりに口元から溢れた。
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