海と空の狭間

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「好きだよ…っ…」  唇から真紅が滴る中、彼の言葉が鼓膜を揺らし、光のように朧気だった頭に弾けた。  目を向ければ、疲れ果て青褪めた彼の気丈な微笑みがあった。 「…もし…っ…来世が…あるなら…っ…、…今度は…っ…君を……」  口元の血を拭うように潮風に冷えた手を伸ばし、レオはシェリンの頬を撫でる。  本当はその手に触れたかった。  握り返したかった。  けれど、彼女に残された腕の力ではそれは叶わなかった。  もう彼女にしがみつけない彼の細い体を支え続けるにはキツく抱きしめる両腕を、強く彼の防寒着を握り締める両手を解くことは許されなかった。 「レオ…、私も大好きっ…。今度は元気な体で会おうね…っ…、普通の体でっ…普通の…っ…。出会うのも…病院なんかじゃなくて…っ……」  精一杯の笑顔で想いを伝えた。  涙と交ざった真紅が彼の頬へと零れる。 「…そう…だね…っ…」  満足そうに頷く微笑みが、次第に生気を失う。  シェリンの翼も羽ばたきが鈍り、紺碧から浅葱色へと色を変えゆく海に段々と引き寄せられた。 「レオ…、今度は…私を…お嫁さんにっ……」 「…うん…約束…っ…、…ぜっ…たい…に……」  その約束が最期に二人が交わした言葉だった。  雲一つ無い蒼天と楽園の島へと続く浅葱色の海の狭間、無垢なる天使と少年は漣の中へと溶けて消えた。
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