猫【動物】5分

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猫【動物】5分

 初めに説明すると私の運命の一冊とは、本ではなく猫である。  私が思い描く本の概念とは、教科書である。  本とは、知識を得る為の道具……  私は、子供の頃——国語、その中でも漢字がとても苦手だった。  その為、授業中の音読が死ぬほど嫌いだった。だって、本なんて読めないから……  そして、そんな時に出会ったのが漫画だった。  漫画は、私に漢字の読み方を沢山教えてくれた。  親には、漫画なんて読んでないで勉強しないと何度も言われた事があるが、私はつまらない教科書より。面白い漫画の方が百万倍勉強になると思っていた。  その為、私は漢字も歴史も漫画で覚えた。  そして、知識を得るもの(イコール)本と言う概念になっていった。  そして、ここからが私の運命の一冊に関する話なのだが……  私は幼少期、かなりの泣き虫だった。  その為、父親には——いつも泣くな! 泣いたら負けだ! と、そう言われ続けた結果。私は、小学校の三年生になった頃には良くも悪くも全く泣かなくなった。  それからは、大人になってからも、感動する映画やドラマを見ても全く泣かなくなると、周りからは感情を何処かに置いて来ただの無くしただのと馬鹿にされた。  しかし、感情を無くした訳ではない。  ちゃんと、お笑いを見れば笑うし。ムカつく事があれば怒る時もある。  ただし、感動とか悲しむと言う感情は少し鈍くなったのは分かる。  卒業式や結婚式では、全く泣いた事がない。  卒業したって、連絡すればいつでも遊べるし。  結婚とは、愛し合う二人が一緒になる事で——喜ぶ事で、泣く事ではない。  そんなこんなで、物事に何やら理由をつけてしまう私は、お葬式でも泣いた事がない。  そして、大人になり。もっともっと泣かなくなった私は、泣いている人を不思議がる様になっていった。  そんな、ある日……。  私の家に一匹の猫が迷い込んで来た。私は、何気なしに食べていた唐揚げ棒を一つ猫い与えると、その猫は唐揚げを食べ終わった後に私に近づいて来ると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら擦り寄って来た。  私は、野良猫なのにチョロい奴だなぁ〜。なんて思っていた。  そして、その子は私の家に住み着く様になった。  私が朝仕事に向かう為に玄関を開けると、何処からともなく現れるその子。私は頭を撫でて「行ってきます」と言うと、ゴロゴロと喉を鳴らしてお見送りをしてくれる。  そして、仕事から帰って来ると——またもや何処らか現れて「ただいま」と言って頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らしてお出迎えをしてくれる。  そんな日々が、一年も続くと私はこの猫に【わた】と言う名を付けていた。  そして、猫は珍しい事に庭で飼っていたうちの犬とも仲良くなっていた。  寒い日には、丸まったうちのワンコのお腹の辺りに潜り込んで暖をとるワタ。  その姿は、なんとも微笑ましかった。  そして、寒さも本番を迎えようとする秋に事件は起きた。  その日は、庭の落ち葉をホウキや熊手で集めていると、そこへワタがやって来て——その落ち葉の山に飛び込んだ。  すると、集めた落ち葉は——また散乱した。  せっかく集めたのに、私はワタに「やめろ〜」そう叫んだが……その言葉は、虚しく秋の空にと消えて行った。  そんなこんなでも、落ち葉集めを終えた私は、ワタを撫でながら。  この子は、一歳くらいだから……まだまだこんな日が続くのか、そんな事を考えていた。    実は、私の家には家猫が二匹ほど居る。その為に、ワタの事も家で飼おうか悩んでいた。  しかし、それがワタにとって本当の幸せかと聞かれると答えられない。  二匹の家猫は、産まれてすぐに家で飼っている為に外を知らない。でもワタは、外の自由を知ってしまっている。それに、私自身——朝夕のワタの出迎えの姿を見れなくなる事も悲しいとさえ思っていた。私は、ワタをどうするか決めかねていた。  そして、その夜は雨が降り出したので——鳴いていたワンコを家の玄関に入れると、ワタを探したが居なかったので雨に濡れない場所に隠れたのだと思い玄関の鍵を閉めた。  まぁ、居たとこれで家には家猫が居るので——洗ったり。ワクチン打ったりしてからでないと家にはあげられないのだが、一応心配にはなる。  それから寝ようと思った一二時頃に、雨はいっそうの強みを増し。土砂降りとなっていた。  すると、外から鳴き声の様なモノが聞こえた私は、寝るのに少し面倒くさいと思いながらも部屋の窓を開けると、とてつもない雨音と共に「くぅ〜……くぅ〜」と言う子犬の鳴き声の様な声が聞こえて来た。 「えっ!? 子犬……わんちゃん?」  私がそう窓の外に向かって声をかけると、外から「シャーッ!!!」と言う猫の威嚇の声が聞こえて来た。  私は、ワタを思い出し、うちの犬がしつこい時も「シャーッ!」と言って威嚇するのを思い出した。  しかし、威嚇はするが手を出したり攻撃したりはしないワタなので、少し安心はしていた。  しかし、犬の「キャンッ」と言う鳴き声が聞こえたので心配になり。一応、携帯のライトをつけると玄関の外へと出て行くと、物凄い大雨に——私は、少し怯んだが……覚悟を決めて声のした方に向かってみる。  そして、弱々しい携帯のライトで照らしたその先には、大型犬くらいの犬がコチラに気づくと走って逃げていった。 「何だよ! 子犬じゃないのか……」  そう思い私は、その場を立ち去ろうとすると、さっきまで犬が居た辺りにゴミ袋みたいなモノが落ちているのが分かった。  まぁ、風邪も強いし飛んでくるだろう……雨も強いし流れて来るだろう……。  私は、そのゴミ袋らしきモノにゆっくりと近づくと——膝をつき、それを抱きしめる様に抱き抱えた。 「まだ温かい……医者、早く病院に連れて行かなくては——」  しかし、灯りを当てて確認をしたワタは——瞳孔が開き……首が違う方向に曲がり折れていることが分かった。  私は、その時——後悔をしながら小さな声で呻きながら目からは熱いものが流れていた。    その時、私が感じていた後悔とは——あの時、もう少し早く駆けつけていれば——こんな事にはならなかったと言う事。  あの時、家の中に保護していればこんな事にはならなかったと言う事。  家の犬と仲良くしていた事を微笑ましいと思って、犬が怖いと言う事を教えてあげなかった事。  しかし、それよりも——雨が降っていた為、少し面倒くさいと思い。五秒、いや——走れば十秒早く来られたと言う事実。  そして、あの時——子犬だと思いワタを殺した野良犬を心配した。その自分への怒り。  この時の私は、人生で初めて——悲しみや怒り、後悔や悔しさ……  そう言ったモノで、頭がぐちゃぐちゃになっていた。  そして、腕の中で冷たくなるワタを抱きしめながら、野良犬を殺してやると言う殺意でいっぱいになった。  しかし、野良犬もコロナにおける人間のエゴの被害者である。  実際、私は——この辺りに野良犬がいる事を初めて知った。  子供の頃は、よく見た野良犬だが大人になってからは野良犬なんて見た事が無かったのだ。  その後は、怒りはおさまらなかったが……警戒心の強い野良犬は捕まらない為に、諦めるしかなかった。  それから、ワタのお墓を作り。  日常に戻った私には、変化が起こった。  感動する映画やドラマ、アニメなどを見ると涙が溢れて、堪えられなくなっていた。  始めはビックリしたが、今は諦めている。  これは、ワタが私に教えてくれた道徳心だと——。
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