異端弁護士零

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「痛いなー。なんでこんなもんがあるんだ!」  怒って前島に文句を言うのだが「親分が音楽始めたいって買ったんでしょ」と言われて秋森は言葉をなくしてしまう。  仕事も取らないで暇そうにのんびりとしていた秋森たちを見かねた所長が「倉庫が君の私物で埋め尽くされてるから、整理でもしなさい」と言うので今の状況になっている。  傍若無人な秋森なら「知らない!」との一言で済ましてしまいそうなものなのだが、渋々と言うことを聞いていた。以外にも秋森が所長の言うことを聞くのは、この事務所の七不思議に数えられている。 「仕分けをして要らないものはこっちの箱にお願いします」  前島がゴミを詰める箱を用意して秋森の前において、前島が秋森の私物を置く。当然必要なものはもう前島がロッカーに片付け始めているので、秋森の元に置かれるのは不用品だけ。 「んーっとねー。これは置いとく。これはまだ使える。これはー、一応保留」  全く片付けは進んでいる様子はない。 「捨てなさい。要る私物は家に持って帰ってください。このロッカーは親分のトランクルームじゃありません。  前島の言葉を聞いた秋森は頬を膨らませて「あたしんちはゴミ置き場じゃない!」と言い切っていた。 「要らないんなら捨てましょうよ。そして親分の家を想像すると怖くなりました」  前島の浮かべた予想は、山と積まれたガラクタがその辺に転がっている風景。普段仕事がそれなりに忙しいのでゴミ屋敷とまではなってないだろうが、散らかっているのは容易に想像できる。 「あらー? あたしの家は綺麗なもんだよ。お洒落な家具に囲まれて物の少ないクリエイティブな空間さ」 「嘘ですよね。わかりますよ。そのくらい」 「嘘なもんかい! 本当にそんな部屋があるんだ!」  文句で返す秋森の言葉に、前島は再び予想する。  恐らくこの言い方は本当なんだろう。だけど、それは部屋の一角だけだろう。倉庫となっている部屋があってそこは魔窟なんだ。  呆れながらもまた一つ書類ファイルで棚を埋め尽くした前島が視線も介さずに「全部の部屋がそうなんですか?」と聞くと「なんで綺麗になんないんだろ」と秋森は暇そうにキャラクター物の団扇を振っているが季節違い。 「いつもマエが片付けてくれたら良いのにな!」  今の前島の働きぶりは褒められる程だ。片っ端から詰め込められていたロッカーが年代順に書類棚になっている。それまでは意味不明な混在ぶりだったので明らかに彼は片付けが得意と秋森は思っていた。 「馬鹿なことを言わないでください!」  存分に慌てた前島が急に振り返るので、バランスを崩してロッカーに捕まる。それはまだ手を付けてない更に古いものが詰まっているほうのロッカーで、そんなものからは雪崩が起きる。  ロッカーの全てのものが前島に降りかかりその命、までは取らなかった。しかし、倉庫はひどい状況になって書類とガラクタに埋もれ上半身だけ出した前島が「どうしてこんなことに」と項垂れる。 「そりゃあ、普段の行いでないのかい?」  いや、原因明らかに秋森にあるのだが、その彼女は高らかに笑っている。その笑い声が引き金になったみたいにロッカーの一番高い棚から重量のあるものが落ちた。「痛て!」しかも前島の秀才なあたま目掛けて。  また笑い声が響いて「取りつかれてるんでないのかい?」なんて秋森はまだ笑っていた。 「全部、親分の責任でしょ!」  普段温厚な前島にはめずらしく怒った印象を深めて、さっきの重量のあるものを秋森に投げつけるみたいに抱えた。  しかし、それは格好だけ。前島は秋森と違って常識人。とは言え秋森も法律では存分に戦うが暴力で戦うことはない。その筈。  前島はおとなしく掲げたものを下ろしてその正体を見る。 「これは要らないですね」  手にあったのは十数年前の六法全書。埃まみれになってしまって読み込まれている印象もあって、一言で言うならかなりボロイ。明らかなガラクタだ。
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