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「ちょい待ち。それは捨てるな!」
「そんなことを言うから物が減らないんですよ。古い六法なんて使い道ありませんよ」
まあ、当然そうなのだが、六法から秋森に視線を移した前島が見たのは秋森の真剣な顔。それは案件に係わっているときの弁護士秋森の顔だ。
「それだけは捨てるな」
あまりの迫力に前島は声をなくしてしまい、そんなに大事なものなのかと六法全書を眺める。
本の端っこに違う紙質の紙片が出ているのを見つけて、前島はそれを引き出した。
「これは? 誰ですかね?」
その紙片は写真で若い男とまだ幼さが残っている女の子が並んで写っていた。
さっきの格好良い顔つきから修羅の形相になった秋森が「返せ!」と言うが、この程度の怒りなんてもはや怖くない前島はヒラリと秋森の魔の手から逃げる。
獰猛なトラの爪のような手が写真を取ろうとしているが、ヒラヒラと躱して前島はその写っている二人を眺めている。どこかで見た気がする。だけど知らない。
体力的に秋森が前島に勝てるわけがない。年齢差もあるし、確か前島は学生時代にスポーツをしていたから。秋森は疲れてしまって写真を取り返すのを諦める。
「一応言うが、惚れるなよ」
それは断然惚れっぽい前島に対しての注意。
「今はどんな美人さんなんでしょうね?」
だけどその注意は通じてないみたい。前島は写真を麗しの瞳で眺めていた。
「今はもうそんな二人はいない」
「亡くなってるんですか?」
当然秋森の言い方ならそう思うので前島は少し残念そうな顔になって秋森は見ていた。
「違う。もうそんな若かりし姿なんてないんだよ」
ボーっとしていた前島が持っていた六法は、静かに語った秋森が抱える。
一体古い六法を大事そうにしている意味なんてあるのだろうかと前島は思ったが、それを聞けるほどフランクな雰囲気はない。だけど救いは有る。
「派手な音が響いたけど、片付いたのか?」
今回の片付けを命じた所長が姿を現した。恐らくさっきの雪崩の音と片付けの進捗状況が気になっている様子。
「マエが馬鹿になったので片付けはまた今度にします」
確かに六法の攻撃によってあたまにタンコブはできているだろうが、それでも片付けを辞めるほどの理由にはならない。
「秋森さん、逃げないでください」
すっくと立ちあがった秋森を睨んで前島が言うが、その秋森はさっきの六法をロッカーに収めていた。
「懐かしいものがあるな! まだ持ってたのか」
前島が気になっている六法を見て所長がその正体を知っているかのように語る。
ロッカーに置かれた六法は所長が手に取りパラパラと捲る。前島が所長の横から見ると、六法はかなり勉強されたみたいで書き込みが多い。
「この六法全書はなんなんですか?」
詳細を知ってそうな所長に前島はこれ幸いとばかりに聞く。当然この六法については気になっているから。
「これはな、秋森くんが弁護士になった運命の一冊なんだよ」
流石に後輩である前島は秋森が弁護士になった経緯をしらない。
「おっさん。その話はやめなよ」
軽くさっきからそっぽを向いてしまっている秋森がポツリと語るが所長の語りは続く。
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