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家族
大学入試は寝ずに勉強し今までで一番努力した。試験は緊張したものの、不安なんてなかった。あの本に頼ろうなんて気持ちは起きなかった。これだけ努力したのだ。努力は必ず実を結ぶ。それを知っている僕は誰よりも強い。そして結果は合格。当然の結果だ。
それからも僕は人一倍努力した。一流企業に就職し、大学の後輩の真澄と結婚をした。
「俊之……そろそろみたい」
「そうか。すぐ行こう」
真澄の陣痛の間隔が短くなってきた。ちょうど予定日の今日、有給を取っておいた。後部座席で横になり苦しむ真澄。なるべく揺れないようにと慎重に運転した。
いつも冷静沈着な真澄が歯を食いしばり顔を歪めている。泣きごとを言わない真澄が「痛い」と呻いている。こればかりは僕がいくら努力してもどうする事もできない。でもその分真澄が頑張ってくれている。真澄も僕に負けず劣らぬ努力家だ。努力する真澄はいつにも増して美しかった。
「女の子ですよ」
助産師から渡された赤ん坊は弱々しくたよりなく、どうやって抱っこしていいのか分からなかった。とにかく落とさないようにしっかりと抱きしめ、汗だくになっている真澄の目の前に連れて行った。
「多嘉楽だよ」
「うん……」
子供の名前は決めていた。僕たちの宝物、だから多嘉楽。宝物のように大事に、でももっと輝くように磨いてあげよう。そんな思いを込めた名前だった。
多嘉楽の頬に手を伸ばし、真澄は涙を溢した。僕はありがとうしか言えなかった。こんなに可愛い子供を生んでくれた真澄のために、そして多嘉楽のために、僕は今までで以上に努力する事を誓った。
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