入院

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入院

 多嘉楽が入院したので真澄は仕事を辞めた。いつ急変するか分からない。常時付き添いが必要なためだ。  難関を突破して就職できた憧れの職場だった。少し慣れ、やり甲斐を感じつつあった頃妊娠し産休に入った。もう保育園も決めていた。多嘉楽が入園したらまた、真澄は働くつもりだった。  真澄はどんな思いで仕事を辞めたのだろうか。残念、無念。いや、多嘉楽のためだ。今は多嘉楽の事を一番に考えなければならない事は真澄だって十分理解している。多嘉楽が元気になったら再び働けば良い。早くその日が来て欲しい。僕は2人を支えるべく働くだけだ。入院費や手術代もかなりかかりそうだ。残業でも休日出勤でも進んで引き受けよう。将来のために今頑張らなければ。多嘉楽が大学に行きたいというかもしれない。結婚式も盛大に挙げてあげたい。  僕は働く。僕にできる事はそれだけだ。多嘉楽も真澄もそれぞれ頑張っている。みんなの努力は必ず報われる。努力は必ず報われるのだ。  多嘉楽の初めての誕生日は、病院のベットの上でお祝いをした。ケーキにささったロウソクの火は、まだ吹き消す事はできなかった。でもケーキは美味しそうに食べてくれた。口の周りをクリームだらけにした顔を見て、真澄は久しぶりに笑った。多嘉楽も、真澄も、すっかりやつれてしまっていた。  でも、先は長い。移植の順番はまだまだ回ってきそうにない。 「人工心臓?」  医師に呼ばれ、これからの治療について説明を受けた。 「多嘉楽ちゃんの心臓は殆ど動いていません。なので移植までの間、補助人工心臓で心臓を動かす必要があります」  心臓が殆ど動いていない……僕の心臓は早鐘を打つように鼓動を早めた。 「それを使わないと、多嘉楽は……」 「多嘉楽ちゃんの生命力次第です。でも今もかなり呼吸は苦しそうですし、食事も睡眠もままならない状態です」 「それを付ければ多嘉楽は元気になれるんですか?」 「元気、というより、今よりも楽にはなります」  それならばと人工心臓をお願いした。ほどなく人工心臓を取り付けるための手術が行われた。小さな体にメスが入れられるなんて耐え難かった。しかしそれは移植に一歩近付いたという事だ。早く移植をして元気になって欲しい。  多嘉楽の体から何本ものチューブが伸びている。痛々しい。代われるものなら代わってやりたい。
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