入院

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 2度目の誕生日も病院のベットで迎えた。補助人工心臓を付けているので部屋から出る事はできない。半径2メートルが多嘉楽の世界の全てだった。体に取り付けられたチューブが多嘉楽の心臓の代わりに体中へ血液を送ってくれている。  真澄の教育のお陰か、多嘉楽はお喋りになっていた。僕を見て少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに「パパ」と言ってくれた。  僕はクレヨンとお絵かき帳をプレゼントした。早速多嘉楽は真っ白い画用紙にクレヨンを走らせた。細く弱々しい線だったが、3人の絵を描き上げた。 「ママと、パパと、タカラ」  そして多嘉楽はベットに倒れ込み、浅い呼吸をした。真っ青な顔だった。近所を走り回ってる子どもたちを思い出した。多嘉楽はまだ走った事はない。それどころか土を踏んだ事もない。病室で寝ているばかり、周りは大人ばかりで友だちもいない。  早く移植をして外に連れ出してあげたい。色んな所へ遊びに行かせたい。順番はまだ回って来ないのだろうか。  数日後、多嘉楽が感染症で熱を出したと連絡がきた。人工心臓を装着していると感染症や血栓が起こりやすい。僕が会いに行ったせいでバイ菌を感染させてしまったのだろうか。プレゼントしたクレヨンに雑菌が付いていたのだろうか。  面会に行くのが怖くなった。僕が面会に行くと多嘉楽が苦しむかもしれない。そう思うと病院から足が遠のいた。  早くドナーが見つかってくれたらいいのに。早く移植をして退院できればいいのに。いったいいつまで待てばいいのだ。
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