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か細い声は空中に散る。これ以上、長引かせても苦しませるだけ。心臓の跳ねる音は大きくなる一方、選択を急かすよう。
「ごめん……ごめんね……!!」
唾を飲み込んで目を閉じる。落ち着かない鼓動、意味のない懺悔を心の中で唱える。
彼女から腕を引き抜くと、それまで溜まっていた血液が噴水のように放出。項垂れた彼女の体は行き場所を失い綺麗な顔だけを残す。濃淡のある赤茶色の液体が一帯を染めてその全てが彼女だと理解した時、込み上げてきた心の不安を抑えきれずに吐いてしまった。
人体が果てた時に放つ刺激臭、噎せ返るほどの鉄の匂い。その光景が脳に焼きついて罪だと言っているようだった。
「そんな……」
残された顔を抱きかかえる。無惨な死に方をしたのに、私を責めないように笑って逝った。
十四年間、私は幸せだった。それなりに自由にさせてもらえたし、友人も多くて学校も楽しかった。でも、それも親友である彼女の存在が大きかったから。幼稚園の頃からずっと一緒で、悩み事を相談する時も、遊ぶ時も……数えられないぐらい長い時間を共に過ごした。でも、救うことはできなかった。
「これ全部……私がやったんだ……」
もう開くことのない親友の瞼に涙がこぼれ落ちる。すると、証拠を隠すようにその顔面も爛れ始める。思い出を汚し、拒絶して分解されていく。
ただの日常の一幕に過ぎなかったはずなのに、触れた物は腐り始めて命を弄んだ。予兆なんて無かった、あまりに突然の出来事でこんな現実ならば受け入れたくなかった。
手の平に残る体温は彼女の笑顔を刻み、その存在が消えたことを確認すると頭の中が真っ白になった。誰にも会わずに、遠くへ消えてしまったほうがいい。パパもママも心配するかもしれないけど、もし日常で触れてしまったら彼女と同じようにしてしまうかもしれない。人殺しの烙印を押された自分をどうか探さないでほしい……そう思いながら、ただひたすら宛てもなく駆け出していた。
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