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「きろ……」
微かに声が聞こえる。けれど頭の中に浮かぶ靄は晴れずに思考は働かない。
「お……きろ……」
鳴り止まない音を払うようにして瞼を強く閉じる。何日も寝ずに歩き続けていたし、もう少しだけ休みたい……。
「起きろってんだガキ!!!!」
「ひっ……!!」
鼓膜が破れてもおかしくないほどドスの効いた大声は意識を起こすには充分だった。思わず上体を起こして辺りをキョロキョロと見渡すも知らない場所。ただ分かることは女の子を助けたけどその場から逃げて……疲労感のあまり冬の外で気を失ってしまった?
こんな季節に気絶なんて……凍死したっておかしくないのに肌寒いぐらいの感覚で済んでいる。自分でもよく分かっていない能力が人体構造を変えてしまっているような気がして不安と自己嫌悪を引き起こす。
「どんだけ寝るんだよテメェ。二日間も見守るこっちの身にもなれや」
声の持ち主は目の前であぐらをかいて座っていた。ただそこにいる男性?は確かに人の形をしているけど、明らかにかけ離れた存在ということは分かる。
本来は白目である部分は青く、黒曜色の細い蛇眼が不機嫌そうに私を捉える。蒼白のスーツを身に纏い、血の気の無い肌はまるで死人を連想させるよう。
「あなたは……?」
「あっ? 俺はスぺリエル。この世の者じゃねぇって目で見てやがるな。その通りだ、俺は天使だからな」
スぺリエルはツンツンと逆立った銀髪を掻きながら当たり前のように言う。
「天使って……私、死んだの?」
「いや、生きてる。もし死んだとしても、まだ死なせねぇよ」
「まだ? 引っかかる言い方。あっ……この力って」
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