プロローグ

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プロローグ

 鈍色(にびいろ)の空から舞う粉雪が手に触れると形を残すことなく滴る。十二月の景色はいつまでも白銀でせせら笑っているよう。もう何日も眠っていないし食事をしていない、ふらりと足元がおぼつかない。  もし目を閉じてしまったら……想像するだけで嗚咽が走る。瞼の裏に焼きついた光景が自身を責めて拒絶、その繰り返しが睡眠を否定してしまう。  朧げな意識の中に浮かぶ『絶華(ぜっか)』が私の名前。近寄り難い漆黒のスーツを着用して十四歳ということを隠している。 「誰か助けてくれ。医者はいないか。娘が大変なんだ」  必死の形相で助けを訴える男性をただ傍観している人の群れ。男性の言葉を聞こえない振りしているのか、周りは心配の眼差しを向けるだけ。遠くもなく近くもない位置で聞き耳を立てていると、どうやら娘が何かに感染して足から徐々に広がっているとか。  よく見ると同年代ぐらいの彼女は悶絶のあまり意識を失いかけている。か細い声を上げて生きたいと主張するが、それは無慈悲にも喧騒の中に埋もれてしまう。これだけ人がいるのに誰一人として動こうとはしない。力のない数だけの集団に何の意味があるの? どうせ遅かれ早かれ死ぬ……そんなことを思っているに違いない。だからといって私にできることだって……何もない。  ふと、目が逢ってしまう。私に何かを言うわけでもない、彼女はただ苦しそうに現実から手を放そうとしている。そんな目で見ないでほしい、選択をさせないで。生命の紐を掴ませて、十字架を背負わせて……もし神様がいるならば許せない。  血が出そうなほど歯を食いしばり、迷っている思考を噛み潰す。周りの人達に触れないよう隙間を縫うようにして彼女の元へと駆ける。 「スーツ姿だが医者なのか? いや待て、まだ子供じゃないか。君に何ができる」
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