群青に溶ける

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「勿体ないよ! "群青に溶ける"すごく面白いよ! 心揺さぶられたよ……」  私は先程見た翠の涙を思い出した。  もう四十年以上も前の作品を、夜通し読んでくれていた。それに、先輩からのお勧めだと言っていた。  目頭が熱くなる。 「ほら、見て……」  翠は本のページをパラパラとめくった。  ページの随所には、カラフルな付箋が貼ってあり、マーカーも引いてあった。   「先輩がね、無名だけど"北野リラ"の文章には魅力があるって、言葉がスーっと心にしみ込んでくるって言っていた。わかるの。私も同じように感じるから……」  私は堪えていたものがこみ上げてきて、視界が涙で霞んだ。 「翠……」 「ねぇ、ばあちゃん。今の時代はね、昔よりもずっと簡単に自分の作品を発表できるんだよ! 私も先輩もやっているんだけどね……インターネット上で物語を手軽に読んだり書いたりできる小説投稿サービスっていうのがあるんだ。コンテストもあってね――……」  翠はまた、早口で話し始める。  私は翠の説明の半分も理解できなかったけれど、要するに翠は、私に執筆を続けてほしいと伝えたいようだった。それから、先輩にも会ってほしいと。  翠があまりに懸命に力説するものだから、涙と一緒についつい小さく笑いが溢れだす。 「翠、わかった……わかったから、落ち着いて?」  肩が小刻みに震えた。それが笑いからなのか何なのかわからない。ただ、胸のあたりがじんわりと温かく、涙がとめどなくこぼれ落ちた。      
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