群青に溶ける

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 東京に住んでいる孫娘が、何の連絡もよこさずに単身で突然やって来たことに驚きを隠せず、私は辺りを見渡した。 「なぁに、一人? お母さんは? 突然どうしたの?」 「九月いっぱい夏休みだから、ばあちゃんに会いに来たんだよ! 避暑もかねて……」  翠は両肩を持ち上げて、鼻に皺を寄せてくしゃっと笑った。  その鼻に皺を寄せて笑う顔には、昔の面影が残っていて、目の前のハイカラな娘が本当に翠なんだなとやっと飲み込むことが出来た。 「それはそれは、ご苦労さんね。ほらほら、入んなさい。あらやだ、ジュース何か良いのあったかしら……」  私は、翠を家に招き入れた。 「わぁ、懐かしい! ばあちゃん家の匂いだぁ……あ、この花瓶まだ使ってるんだー?」  翠は子供のようにキャッキャとはしゃぎながらも、家にあがる時には、しっかりと靴を揃えてあがった。それからすぐに和室の仏壇の前に正座すると、鈴を鳴らして「じーちゃん、翠が遊びに来ましたよ」と手を合わせて挨拶をした。  孫の顔どころか、娘の成人した姿も見られなかった齢四十で時を止めた夫の遺影が、優しく翠を見下ろしている。   「これお土産」  そう言って、翠は有名な東京の銘菓の箱を私に手渡してくれた。 「あらぁ、ありがとう。コーヒーか紅茶でも淹れようか」 「うん、紅茶がいいな」 「疲れたでしょう? 横になったら?」 「大丈夫。ありがとう」    奇抜な風貌に目を見張ったが、翠の一連の行動を見ていると、なんら昔と変わらない天真爛漫な娘のままで安心した。  たった六年。ついこの間のような気がするのに、小学生だった翠はこんなにも大きくなったんだなぁ……と、月日の経過の早さに驚くのと同時に、私も歳をとるはずだよなと、ため息が漏れた。  だが何より、会いにきてくれたことが嬉しくて、久々に胸が踊った。気づけば私は、お気に入りの曲を鼻歌で歌いながらティーポットにお湯を注いでいた。
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