群青に溶ける

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 早く起きるつもりはなくても、嫌でも早くに目が覚めてしまうのは歳のせいなのだろう。  今朝も、五時前には目が覚めて、掃除や洗濯など、いつもと変わらぬ日課をこなす。  疲れているだろうからと起こさないでいると、翠が起きてきたのは十一時過ぎだった。 「ばあちゃん家の布団気持ち良かった! 気づいたらこんな時間だったよ……」  ヘヘヘと笑って、お腹をポリポリかきながらの登場。  化粧を落とした素顔の翠の寝ぼけ顔は、昔とそう変わらず癒された。   「目玉焼きとウィンナー焼いたのあるけど、食パン焼く? でも、もうすぐお昼ね。お蕎麦でも作ろうか?」 「ううん、出かけるからパンもらおうかな」  昼ごはんになった朝のおかずとパンをかきこんで、翠は急いで出かける準備を始めた。  今日は昨日とは違って、藤色のサマーニットに、女性らしい丈の長い白いフレアスカート姿が可愛らしい。   「ばあちゃんって、読書家だったんだね!」  出かけ際、玄関先でスカートを翻して翠がそう言った。 「え?」 「二階の書斎。昔は気づかなかったけど、本がたくさん! 私さ高校で文芸部に入ってたんだ」 「へぇ……」  思いがけない話題に、私は気の抜けた返答をする。 「実は今日、その文芸部の時の先輩に会うの。こっちの大学に進学したから一年ぶりなんだ……今も活動してるって」  翠の表情が柔らかくなった。   「翠はその先輩が好きなのね」  何気ない私の言葉に、翠の顔がみるみるうちに赤くなった。 「ちがっ……くはない。尊敬してる。描写も文体も素敵でさ……」  私はにやけながら「ふぅ~ん」と返す。  恋する乙女って、どうしてこうも可愛いのかしら。  恥じらう翠を見て、なんだか胸の辺りがくすぐったくなり、頬がゆるんだ。  
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