群青に溶ける

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 翠が帰宅したのは、二十一時過ぎだった。  出かける際には持っていなかった紙袋を携えており、「先輩が車で送ってくれた。これ、お勧めの本だって。三冊も」と重そうな紙袋をテーブルに置いた。 「楽しかった?」と訊くと、翠はニンマリと笑って「楽しかった~!」とVサイン。  高揚感を漂わせた翠は、まるでジュエリーボックスを見つけた幼女のように目を輝かせている。  そんな翠が眩しくて、愛しくて、私も自然と笑顔になる。    ◇ ◇ ◇    チュンチュンと雀のさえずりが微かに聞こえて、瞼越しにうっすら陽の光を感じた。  朝の訪れを認識して目を開けると、私はソファーに横たわっていた。どうやら昨晩、翠の話を聞きながら眠ってしまったらしい。  翠が掛けてくれたであろう毛布に包まれて、ちっとも寒さを感じなかった。  体を起こすと、ふとキッチンの電気が灯ってることに気が付いた。静かに近づいて覗いてみると、翠が椅子に座ってひっそりと読書をしていた。  夜通し読んでいたのだろう。翠は私に気付きもせず、本に没頭している様子で、涙を流しながら鼻をスンスンいわせて読書を続けた。  そんなに熱心にどんな本を読んでいるのかと、翠の手にした本を見ると、心臓が飛び跳ねた。  ──まさか!?  膝の力が抜けて、私はその場に座り込んでしまった。  ドクドクと心臓が暴れて、興奮のために息があがる。 「ばあちゃん?」  私の様子に気付いた翠が、驚いたように駆け寄ってきた。 「どうしたの、大丈夫? どっか痛いの? 胸?」  私が胸に手をやって息を荒げていたため、翠は「救急車呼ぶ? どうしよう、ねぇ、大丈夫?」と狼狽した。  顔を真っ青にして、心配そうに私を見つめる翠を安心させるために、私は大きく深呼吸をした。
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