群青に溶ける

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「違うの。大丈夫、驚いただけよ……」  私は呼吸を整えて、笑って見せた。   「本当? 嘘じゃない? 無理してない?」  翠は、そう言って私の顔を覗き込む。 「嘘じゃない、大丈夫。ゴメンね。本当に大丈夫だから……」  私は真っすぐに翠の目を見つめてそう答えた。そして、翠の手の下敷きになっている年季の入った単行本に視線を落とした。  群青とオレンジの夕陽を連想させられる表紙。  年季が入ってくすんでいるし、角は擦り切れて白くなってはいるけれど……『群青に溶ける』というタイトル。それから、著者名の『北野リラ』。    見間違うはずがない。  これは……この本は……。 「あなた、この本どうしたの?」  私は翠に尋ねた。   「どうしたって、先輩から勧められて……」 「そうなの……先輩が……」  深く息を吐いて、私はその本を両手で拾い上げて表紙のタイトルをそっと撫でた。 「ばあちゃん、この本知ってるの?」    翠は、不思議そうに小首をかしげて私を見つめる。 「ううん……何でもないわ」  翠は眉を顰めて「そんなに取り乱して、何でもないことないでしょ? 何なの?」と、詰め寄ってきた。  絶対に引き下がらないという意志の強さを感じた。    あぁ、頑固な娘にそっくりだ。さすが親子ね。    私の反対を押し切って上京を決めた時の娘の顔と重なって見えた。  私は仕方なく、ゆっくりと重たい口を開いた。
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