1.優しい人たち

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1.優しい人たち

 周りよりもやる気のない拍手をした。  拍手をしている教師の隣で、サキが照れたように笑っている。 「サキさんも、とうとうご自身の天使を見つけました。非常に素晴らしい。サキさんの未来は幸福に満ちたものになりました」  教師が仰々しく言う。  天使を見つけた生徒が出る度に言うが、こいつ本気で言ってんのかと思う。しかし、周りを見ると、涙を流して喜んでいる生徒もいるから、こんなふうに思っているのは私だけかもしれない。 「これで、このクラスで天使を見つけていないのはキリエさんだけですね」  突然矛先を向けられて、勢いよく立って返事をする。 「はい!一日でも早く天使を見つけられるように努力します!」 「そんなに肩に力を入れなくても大丈夫ですよ。あなたなら見つけられると信じています。皆さんもそうでしょう」  教師が教室を見回した。それに呼応して生徒が頷き、大丈夫だよってガッツポーズのようなしぐさをする生徒もいる。  それに笑顔で応える。  早くここから抜け出したいって思っていると、ちょうどチャイムが鳴った。 「それでは、本日はここまでにしましょう。皆さん、また明日」  教師が出ていくと、私は助かったと一気に力が抜けて椅子に座り込んだ。他の生徒はサキに話しかけている。きっと天使の姿を聞いているのだろう。  天使の姿は人それぞれらしい。羽の大きさも、その数も。しかし、姿かたちが問題ではなく、大切なのは天使を見つけたという事実だった。  天使を見つけた人は視者と呼ばれる。善行をするようになり、他人を励まし、親切になる。簡単に言えば優しい人になる。  そんな優しい人でここはいっぱいだった。  時計を見ると、薬の時間だった。  天使が見えるようになる薬だったらいいのだけど、突発性睡眠を抑える薬なのだから、なんの面白みもない。  以前、飲み忘れて下校中に眠ってしまったことがあった。ちょうど視者が近くにいたので事なきを得たが、場所によっては人さらいがいるらしいから用心しないといけない。  薬を飲んで、優しさに満ちた学校を出た。
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