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5.私は……
天使を見つければ、視者になれる。
なら、天使を見つからなかった人は、なんて呼ばれるのか?
調べても見つからない。それはつまり呼び名なんてないということ。
名前がなければ、存在しないのと同じこと。
もしそれが存在するのなら、きっと悪いものだろう。
人殺しとか、人さらいとか。
廃墟内は静かだった。
床にはほこりが溜まり、歩くだけで舞った。壊れたドアや落下した天井の破片が散乱している。天井が崩れ落ちたとこから、天使の梯子のような光の筋が影を切り裂いていた。その光の中をキラキラと埃が浮遊している。
「ルコ!」
呼びかけても返事はなかった。
「ルコ!!」
パキリと音がした。人さらいかと思って振り返ったが、そこには何もない。
さらに廃墟の奥へと行く。足音以外の音が聞こえない。
『あなたの周りに素敵が人がいるのなら、それはあなたが素敵だからです』
ハッとして周りを見回した。人影はどこにもない。声が聞こえたような気がしたが、それは先生の声のようだった。
「幻聴か……?」
幻聴だとしても、先生がそれを言った時のことを思い出した。
くだらない。そう思っても、周りの生徒はその言葉にいたく感動したようだった。お互いに視線を交わして、瞳を潤ましていた。
もし先生が言ったことが真実だとしたら、周りにクソしかいない私はクソなのだろう。
私の両親は天使を見たことがない。でも、教皇に天使を見たと嘘をついて視者になった。かろうじて優しさの輪に紛れ込んでいるクソだった。
悪いとは言わない。そうしないと生きていけないのだから仕方ない。
そんな親を見て育ったから、私は天使を信じることができなかった。天使がいるというのなら、どうして両親のもとには来ないのか。誰よりも天使を探し求めてるルコの前に姿を現さないのか。
憤ったところで答えは出ない。その答えは天使だけが持っているのだから。
やがて廃墟の壁が見えてきた。最奥まで来たようだがルコがいない。
心臓の鼓動が激しくなっていく。最悪の事態が頭をよぎる。ルコがさらわれた!
その時、瓦礫の向こうにルコが倒れているのを見つけた。周りに誰もいない。
「ルコ!」
駆け寄って、肩をゆする。ルコが「んん」と言って反応があった。
「ルコ、良かった」
薄くルコが目を開いた。
「ルコ、大丈夫か?何があった?」
「見つけた。私の天使……」
そう言うと、私に手を伸ばした。しかし、すぐに力尽きたように手が下がった。ルコは目を瞑って全身から力が抜けていった。
「ルコ!おい!ルコ!起きろ!」
その時、強烈な眠気が襲って来た。座っていることすら難しくなる。
「こんな時に……」
薬を飲み忘れていた。それがここで邪魔をするなんて。
とうとう姿勢が保てなくなりルコの上に倒れた。意識が消える瞬間、瓦礫の向こうに人の姿があったような気がした。
その人の背には大きな翼があった。
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