第一章

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第一章

季節の花々が咲き誇る庭園で、一人の少女が佇んでいる。  「クフェア、そこは危ないから、こっちにおいで」  「兄さま……」  「どうしたの?何かあった?」  「何でもないです」 少女は無表情に答える  「……そうか」 嘘だ。何でもないわけがない。 私、アベリア・フルトニアは前世の記憶を持っている。 理由はよく分からないが、隣国の第二皇女、クフェア・ウェルネスとして生まれ変わっていた。 私の前世は、アベリア・フルトニア。フルトニア王国の王女だった。本来なら大切にされるはずが、アベリアの誕生と同時に王妃が亡くなった。王は王妃を依存するぐらい愛していたのだ。 だからだろうか、王妃が亡くなった理由を生まれてきた王女アベリアになすりつけた。アベリアは塔に閉じ込められて育った。 私のなにが悪かったのだろうか? 気づいたら、アベリアは戦場に立たされていた。仕事を淡々とこなしていく機械のように人を殺していた。 全てが嫌いになった。誰も助けてくれなかった。 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……  「人間が嫌いだ……」 幸せを知らない。愛を知らない。人の温もりを知らない。私は一体だれ?  「人が嫌いなのか?」  「え?」 顔を上げると、兄さまが不思議そうにこちらをのぞき込んでいた。  「クフェアは人が嫌い?」  「私は……」 人が嫌い? それとも好き? 分からない。 嫌いってなに? 好きってなに? 私には何も分からない…… 質問に答えようとして口を開いたとき、別の声に遮られた。  「エンレイ~!クフェア~!何処にいるの~?」 庭園の奥からお母様の声が聞こえる  「仕事が終わったみたいだね。クフェア行こうか」 お兄さまは私を抱き上げて歩き出す。 これ、結構恥ずかしいな。  「エンレイ!やっと見つけたわ!」  「母上、お仕事お疲れさまです」 人が増えるとその場が明るくなる。 クフェアは襲いかかる睡魔に勝てず、静かに眠りの中へと入っていった。   次に目が覚めたのは、太陽が完全に沈んだ後だった。
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